Part 1 飛行機ほど恐ろしいモノは世の中に無し |
ついに初めて海の外に出る日が来てしまった。飛行機で寝れなそうなので早朝波乗りしようと思ったら豪快に寝坊した。嗚呼、これでもう死ぬまで波乗り出来ないかもしれないと思うと目茶苦茶気が重い。重すぎる。ついでに荷物も重い。全てが重い。成田エクスプレス(これも会社持ち)に乗るため、横浜で待つ。ここで一緒に行く先輩と待ち合わせだ。しかし海外未経験、英語駄目な2人を海外出張に出すなんて会社は一体何を考えているのか。暫くすると先輩が来た。二人そろって苦笑いと緊張で変な顔をしている。そうこうするうちに成田エクスプレスが来てしまう。何だこれ、3両編成じゃないか。とりあえず乗り込む。
「この電車の中で最も海外に行きたがっていないのは我々に違いない」なんて下らない会話をしつつも、電車は成田へと突き進む。車内にカーナビみたいに現在位置が掲示されているが、いっそのこと逆に走ってくれないかと思ってしまう。車窓の景色も段々と田舎っぽくなってくる。空港が近づくのを肌で感じて、ますます嫌になる。そしてついに電車は地下に入ってしまった。あーあ、何の問題もなく着いてしまった。
成田空港の駅に降り立ち、ノースウエストの搭乗手続き場に向かう。とはいっても二人とも初めて来るのでどうすればいいのかよくわからん。適当に看板どおりに進むとやたらとだだっ広い空間に出る。看板が普通に読めるのは何とも喜ばしいことだと感じる。とりあえずそれぽい所に行って券を出すと、喫煙席がいいか、とか聞かれたのでそのようにしていただく。やっと第一段階クリアだ。次にどこへいくのか良くわからんが、周りの人は何やら自動販売機で券を購入して階下へ向かっている。何だ、空港使用料なんつうのがあるのか。とりあえず購入して人の群れについていく。
すると何ともモノモノしい出国手続き場ではないか。よくわからんが紙に記入するらしいので紙に書いて並ぶ。何ともなく通過。いっそのことここで拒絶されたほうが良かったのだが。適当に奥に進むと、よくドラマとかワイドショーで見る光景があるではないか。免税店やらなんやらがあるが、免税とは一体どういうことなのかわからんので無視する。考えてみたらタバコを4箱しか買っていないので買おうとするが、我が愛煙のセーラム・ピアニッシモが無い。タバコは諦め、しばし時間が来るのを待つ。まわりには日本人、かと思うと良く見たら中国人か韓国人で何を喋っているのかさっぱりわからん。地に足がついているうちに、というわけで、とりあえず写真を撮る。
搭乗を前にして極度の緊張に笑いの止まらない我々
段々と時間が近づいてくる。緊張でトイレが近い。荷物をX線マシンに通して動く歩道で奥に向かう。おお、これがワイドショーで良く出てくる場所ではないか! そして先輩はさらに写真を撮ろうとするが、係官に取り押さえられてしまう。
それにもめげず、先輩はノースウエストのゲートの前で奥さんに電話している。話中らしくいらだっている。放送にせかされて、ついに飛行機へと向かう。あーあ、これから9時間以上あると思うと嫌になる。否、それよりも飛行機が落ちないかどうかが不安だ。仮に落ちなくても毛唐の国に行くと思うと目茶苦茶不安だ。しかし時間は進む。時間に押されるように飛行機へ乗り込む。
我々の席は一番奥のようだ。喫煙席はどうも一番後ろらしい。面倒なので荷物を全部機内持ち込みにしたが、頭上の箱には入らないので椅子の横に置いたら行きなりフライト・アテンダントのババァに怒られた。何を言っているのかよくわからんが、ババァは勝手に俺の鞄を前の席にドン、と置いてしまった。とりあえずいいとしよう。緊張しているうちに、エンジンが轟音をあげ始める。そろそろ離陸のようだ。俺はライトやら何やら操作しているうちに間違えてババァを呼びたくもないのに呼んでしまったりする。先輩は子供の写真に向かって何やらつぶやいている。この機内でも、最もロス行きを嫌がっているのは我々に違いない。飛行機は徐々に滑走路に向かう。我々の緊張もピークに達する。
そして飛行機はピタッと止まる。轟音はさらに大きさを増す。ああ嫌な瞬間だ。エンジンふかしておいてブレーキ踏んで、いきなり発車するとはゼロヨン小僧と一緒ではないか。飛行機というのは何とも趣味の悪い乗り物だ。そして飛行機は猛ダッシュ。ゼロヨンがスタートしたようだ。本当のドラッグレースみたいにパラシュートで止まってくれればいいのだが、そうはいかない。そして飛行機は浮き始めた。先輩は目をつぶって両手を堅く握り締めている。そうとう嫌らしい。とりあえず離陸は問題なくこなし、高度を上げ、安定飛行に入ったのであった。
禁煙サインが消えたので、とりあえず一服する。すると後方からババァどもが飲み物攻撃をしかけ始めている。お願いだから英語で喋らないでくれ、と思うが容赦なくいんぐりっしゅ攻撃を後席のおっちゃん達にしかけている。今のうちに、と何を言っているか理解する。そして我々の席に来た。先輩がどうしていいか困っているので、ビールでも頼め、と言う。俺もビールを頼む。えらそーに「びあ・ぷりーず」なんて言いながら。ついでにナッツもくれたので、飛行の無事を祈って乾杯する。モルツのはずなんだが、味がよくわからん。
食い物を腹に詰め込んで一服しているところに、また後方から攻撃が始まった。今度は食事らしい。しかも今回はババァではなく兄ちゃんだ。何とかorビーフと言っているがよくわからん。よくよく聞いてみるとチッキンらしい。どっちでもいいので、確信の持てるビーフを頼む。ノースウエストの食事はまずいと聞いていたが、まずいも何もない。緊張して味がよくわからん。
度々仕掛けられるいんぐりっしゅ攻撃に参ってしまい、とりあえず英語の勉強を始める。本当は寝たいのだが、揺れるし、五月蝿いし、緊張するしで全く眠れない。新聞でも何でも良いから持ってくればよかった。気付くと、映画をやっていた。フェノメノン、とかいう映画なのだが、音声がジェットエンジンのおかげで良く聞こえない。集中してやっと聞こえるくらいか。映画に興味のない俺は知らない映画だったが、エリック・クラプトンのエンディングテーマだけは知っていた。いかにも俺らしい。次の映画はデイライトだ。やっと眠くなったが、先輩がこれは面白いというのでとりあえず見る。確かに結構面白い。
座りっぱなしの苦痛の時間もようやく終わりに近づいたころ、日本人のフライト・アテンダントが入国用の書類を配り始める。おお、きれいなねえちゃんもいるんだ、と感心しつつ紙をもらうと、米国での最初の居住地、またはホテル、なんて書いてある。おお、困った。我々はホテルの予約すらしていないのだ。困り果てて聞いてみると、空港の近くにはヒルトンとかシェラトンがあるというので適当に書け、と言われたので、とりあえずエアポート・ヒルトンなんて書いておく。そんな高いの泊まれるわけないのに。
窓の外はずっと雲の海だったが、気付くと陸地になっている。おお、これが米国の大地か。だだっ広いばかりで何もない。迫り来るいんぐりっしゅ攻撃に備え、また勉強を始める。さらに米国入国の方法もわからんので地球の歩き方も読む。マニュアル本は嫌いなのだが、まるでわからないんだから仕方がない。そして禁煙サインが出て、徐々に高度を落とし、着陸準備に入る。日本語のアナウンスも入る。さっきのきれいなねえちゃんだろう。他人の日本語も暫くの間聞き納めだろうか。空港が近づく。先輩はまた写真を見ながらつぶやく。俺は知らないうちに足を踏ん張っている。そして着陸。問題なし。現地時間9時だそうだ。おいおい、日本時間はもう夜12時過ぎてるぞ。
適当に流れについていって、入国手続きをする。関税なんたらには何もないので記入しなかったのだが、書かなきゃ駄目だ、と怒られたので隅っこで書く。黒人のおっちゃんが管理官だ。何も聞かれずにクリア。次の関税申請も何もないのでクリア。そして空港を出る。とうとう来てしまった。初めての北米の大地だ。カリフォーニアのサンシャインだ!と思ったら雲っている。とりあえず一服して、今日の宿について考えるが、どうしていいか途方に暮れる我々であった....