開発目的

PIAZZAの北米仕様IMPULSEの販売は比較的好調であったが、日米貿易摩擦による自動車の対米輸出自主規制が続く中、輸出台数の絶対枠がある為高付加価値商品への傾斜が強まり、高級乗用車であるIMPULSEの商品力強化が企業的命題となった。

一方社内的にもIMPULSEの熟成を図りたいという思いがあった。それらの内容を踏まえ、’87型IMPULSEに大規模なM.C(Miner Change)を行う事で商品力向上を図り、’88型として発売する事となった。

いすゞ自動車とGroup LOTUS plcは先に相互技術提携契約を締結していた為、’88型IMPULSEのサスペンションチューニングに際しいすゞ側はLOTUS側に協力を求め、このProjectを両社の技術提携第一弾として位置付けた。

PIAZZA handling by LOTUS(以下h.b.L)とはこの’88型IMPULSEをベースに、国内向けに’89型PIAZZA
として展開したものである。’88型IMPULSEの仕様は足回りと電動シートベルトを除き、かなりの部分は’88型PIAZZAに取り込まれている。’89型PIAZZA h.b.Lは’88型PIAZZAに対し、以下の変更を行ったものである。

注)
Group LOTUS plcといすゞ自動車は1986年12月16日、向う10年間の相互技術提携契約(10Years Accord)を締結した。
これに基づき、いすゞ自動車はLOTUSに対しエンジンを含むコンポーネントを供給し、LOTUSはいすゞに
対し、Group LOTUS配下のLOTUS Engineeringがサスペンション等の技術を提供する事となった。
なお、両者の技術提携に関しては、Group LOTUS plc CEO M.J.Kimberleyが自社のエンジニアリングコンサルタント部門を日本でも展開する為に、いすゞ側にアプローチしたものである。
両社ともGMの傘下にあった為(当時LOTUS plcはGMの100%子会社であった)、契約締結に際してはGMの意向も影響した。

変更箇所

handling by LOTUSのベースグレードはXEである。
’88型XEに対し、以下の点が変更された。(h.b.Lでの変更点のみ)

LOTUS Engineering社によるサスペンションチューニング

(別途記載)

足回り

  • リヤサスペンション形式:5リンク式に変更
  • リヤホーシング:ビルドアップ型からバンジョ型に変更
  • サブフレームとクロスメンバ間に両者を繋ぐサポートバーを追加 *3
  • ストラットバーのサポートブラケットにクロージングプレートを追加 *3
  • オプションL.S.D:リヤホーシングの変更により、PF用からファーゴ/ファスター用に変更
  • 専用BBSホイール装着 *4
  • 専用チューニング POTENZA RE71タイヤ装着

*3 IMPULSE及びPIAZZA欧州仕様はh.b.L発売以前から適用済
*4 offsetがPIAZZA専用品。

駆動系

  • プロペラシャフト    2分割式に変更
  • プロペラシャフトフロントチューブ I・B・A内蔵(AT車のみ *5)
  • M/T           1stギアをハイギヤード化、Backをローギヤード化
  • A/T           ロックアップ機構追加

*5
I・B・A : Inner Bibration Absober
フロントチューブ内に小径のチューブを挿入し、ファイヤルギヤの固有振動との共振を防止し、静粛性を向上した。

外装

  • フロントIDFマークを専用品に変更(除PIAZZA NERO h.b.L)
  • ヘッドランプをイエローバルブ化(除PIAZZA NERO h.b.L)
  • リヤウィングにハイマウントストップランプ内蔵
  • テールレンズをEC仕様に変更
  • 左右サイドプロテクトモール内とリヤパネルにhandling by LOTUSエンブレム装着

内装

  • ステアリングホイールにMOMO 3本ステータイプを装着
  • ワイパーコントロールの車速感応機能選択スイッチ廃止 (車速感応機能は継続搭載)
  • 運転席にハイトコントロール機能をオプション設定(チルトコントロールと排他選択)
  • 内装はh.b.L専用ヘリンボーン生地

handling by LOTUSサスペンションチューニングについて

足回り変更内容

サスペンション XE h.b.L ’88型XE
前後コイル 新規開発 F : 4.3kg/mm
R : 2.3-4.8 kg/mm
F : 4.5kg/mm
R : 2.05-4.79kg/mm
前後ショックアブソーバ 新規開発 *6 F : 伸び 82kgf
  縮み 30kgf
R : 伸び 63kgf
  縮み 64kgf
F : 伸び 125kgf
  縮み 25kgf
R : 伸び 130kgf
  縮み 38kgf
前部スタビ ソフトライドサス用を流用 F : 23φ F : 27φ
後部スタビ 新規開発 R : 20φ R : 17φ
専用コンパウンドタイヤ 新規開発 POTENZA RE71及びEAGLE VR *7 従来型と変更無し。
リヤアッパーアーム ’87型IMPULSE用を仕様変更 3リンクの為アッパーアーム無し
リヤホーシング ’87 型IMPULSE用を仕様変更 *8 従来型と変更無し。
フロントトレッド 5mm縮小 1355 1360
リヤトレッド 10mm拡大 1380 1370
フロントホイールアライメント キャンバを0°00’に戻す(’88型以前と同様)
キングピン角度を8°00’に戻す(’88型以前と同様)
’88型でネガティブキャンバが付けられたが、h.b.Lでは従来の0キャンバに戻った。
キングピン角度も従来の8°00’に戻った。
キャスタ角は’88型と同じ4°30′のままである。
キャスター 4°30′
キャンバ 0°00′ -0°45′
キングピン角度 8°00′ 8°45′

*6 ショックアブソーバの開発に際しては、全体で5回のチューニングセッションを設け、フロント53種、リヤ72種の仕様をトライした上で仕様が決定された。
チューニングには英国ARMSTRONG社が全面的に協力し、共同開発の形となっている。
ショックアブソーバの生産はARMSTRONG社とMonroe社が共同で行っている。
(なおARMSTRONG社は1989年にMonroe社に吸収合併された。)

*7 国内及び米国向けはPOTENZA RE71(国内向けは195/60R14,米国向けは205/60R14)
英国向けはGOODYEAR EAGLE VR(195/60VR14)
当初GOODYEAR EAGLEで開発が進められていたが、マルチベンダ化する為ブリヂストン POTENZAをラインナップに加えた。

*8 リヤアッパーアームの全長変更により、アッパーアームの取付位置を変更。

LOTUS Engineeringでの足回り開発期間

1986年秋〜1987年春の約6ヶ月間

足回り開発に要した走行距離

30,000km

開発に参加したメーカー

  • 株式会社いすゞ自動車
  • LOTUS Engineering
  • 株式会社ブリヂストン
  • GOODYEAR
  • ARMSTRONG
  • Monroe

開発スタッフ

h.b.Lの開発はLOTUS Engineeringといすゞの共同開発であり、チューニングには双方のエンジニアが参加している。
LOTUS Engineering側からは元F1ドライバーのJ.Milesも開発に参加しており、Chief EngineerのR.G.Beckerはイギリスでの開発の指揮を取る一方で、来日して日本でのテストにも加わっている。
また専用コンパウンドタイヤの開発の為、ブリヂストン及びGOODYEARのエンジニアも開発に参加した。

h.b.Lに関する良くある誤解

h.b.L用にリヤサスペンションを5リンクにした

IMPULSEのサスペンションにLOTUSのチューニングを施すのが当初の目的であり、IMPULSEのターボモデルはリヤサスペンションは元々5リンクである。
そのモデルを日本でも販売する事になったので、リヤサスが5リンクになっており、h.b.Lの為にリヤサスを変更した訳ではない。

クロスメンバサポートバー

IMPULSEは1985年3月より、欧州仕様は各国向け仕様車の輸出開始当初より対応済であり、h.b.Lの為に新規追加された訳では無い。

インパネクロスバー追加

ダッシュボードの防振対策が目的であり、ボディ補強の為では無い。また、インパネクロスバーの装着は国内では’88型からであり、h.b.Lからでは無い。

Bピラー補強

補強では無くシートベルトレール取り付けの為の対応。
また、Bピラーの仕様変更は国内では’88型からであり、h.b.Lからでは無い。

北米仕様車には電動シートベルト装着が法制化された為、IMPULSEも’88型より電動シートベルト化された。
IMPULSEの電動シートベルト化に際し、シートベルトアンカー用レールの追加が必要になった為、Bピラーの幅を広げただけで、ボディ補強の為では無い。