Part 3 波乗りの聖地へ |
米国初日の夜を何とも情けない状態で終えてしまった我々は、夕方5時には寝てしまったせいもあって朝4時過ぎには起きていた。外はまだ真っ暗だ。日本だったら明るいのになあ、何故だろう、と思うと実は米国は今はサマータイムだったのだ。それ以来米国に居る間中サマータイムの恩恵を受けることとなる。ロス2日目の予定は前から決まっていた。先輩の希望でユニバーサルスタヂヲとかいう所に行くのと、俺の希望でマリブビーチに行くことである。そのユニバーサルスタヂヲとかいうのは、ディズニーランドには死ぬまで行かないと心に決めているような俺は良く知らんのだが、どうも映画の特殊効果やら何ゃらを体験したりするテーマパークらしい。そもそも俺は映画にも特に興味を示さない珍しい人間なのだが、先輩が行こう行こうと泣いてすがるので仕方がない。
行く場所は日本に居たときに決めていたのだが、行動パターンは何も決めていなかった。ああだこうだと言いあった末に、朝一番でユニバーサルスタヂヲに行くことにする。こういう混みそうな所はさっさと行ってそそくさと帰るに限る(要するにあまり興味がないから長居したくないのだ)。そしてその後マリブビーチに向かい、夕食はダウンタウンのステーキ屋ということで話がまとまる。ユニバーサルスタヂヲは7時オープンだそうだから、さっさと行って朝飯はその中で食うことにして、部屋を出る。フロントに行って、またこわーい黒人の兄さんに車を出してもらって、いざ出発。
今日は先輩の運転する番なので、俺は地図を見ながらユニバーサルスタヂヲへと向かう。ようやく明るくなってきた朝の道は空いている。あっという間に到着。駐車場のゲートらしき所で数台の車が待っている。暫く待つが、7時を過ぎても開く気配がない。すると、後方から何台かの車が左前方へと進んでいく。我々も何となくついていってしまう。すると、そこには駐車場があるではないか。一体さっきのは何だったんだろう。良く判らないがとりあえず停めて、スタヂヲへと向かう。
とりあえずユニバーサル・スタヂヲにはついたけど...あーあ、気が乗らねえ。
スタヂヲの周りは商店街のようになっているのだが、どこも開いていない。昨晩は晩飯を食わずに寝てしまったので腹がへって仕方がないのだが、開いていないのでは仕方がない。そろそろ7時なので入るか、ということにする。しかし、チケット売り場に行くと、チケットの発売開始が7時なだけで、オープンは8時だと書いてあるではないか。嗚呼、何ということだ。あと一時間もこんな何もないところでウロウロしていなければならないとは。全くこの本はなっとらん、とまたもや地球の歩き方にケチをつける。どうしようもないのでチケットを買うだけ買って、開門を待つ列に並ぶことにする。あーあ。俺はこうやって遊園地だとかうまい食い物屋だとか、とにかくそういうのに並ぶのが大嫌いなんだが、まさか米国まで来てこんなことをしなければならんとは。並んでいる間に、多くのアトラクションのうちどれに行くか決める。先輩の意見で「ジュラシック・パーク」に行くことに決める。何でもこれが一番の人気だそうだ。
列に並んでいると、何やら後方から日本人軍団が大挙して押し寄せた。どうもツアー客のようだ。添乗員らしきクソババァがゲート脇の係員控室らしき所でああだこうだとほざいている。しかもクソババァの分際できちんと英語で話している。どうもJTBのツアーらしい。ツアーで来ている奴等は本当の意味で米国に来たんじゃねえ、などと先輩と悪態をつく。全く、こんな有名(らしい)な所くらい自分の力で来たらどうなんだ、と思う。何でまた日本人は何処へ行くにも集団行動なんだろう。とか何とか暇なばかりに文句ばかり出てくる。そうこうするうちに、まだ8時になっていないのだが門が開いた。
すると、日本人軍団はゲートでチケットの確認をするやいなや猛ダッシュ。ああ情けない。お前等は日本人の恥だ、なんて思っていると、実は米国人もダッシュしている。あ〜あ〜何なんだ一体。そんなにスゴイのか?此処は。と思うと前方でまた係員に塞がれている。だから言ったこっちゃない。慌てる乞食はもらいが少ないのだ。もう少し古の言葉にも耳を傾けたらどうなんだ。暫く待つと、係員がどいて、また猛ダッシュ。
「ジュラシック・パーク」はかなり奥の方にある。我々(というか俺)はトロトロ歩いて行ったので、既にそれなりに行列が出来ていた。その列の後ろの方に並ぶ。すると、左の方からスゴイ勢いでウォータースライダーが落ちてくる。おお、これかい、ジュラシック・パークは。と一瞬思うが、実は単なるウォータースライダーではないか。まあとりあえず並んでしまったので暫く待つと、我々の番が来る。
スライダーが徐々に上がっていく。周りの米国人は早速写真を撮りまくっている。この時点ではまだそんな大したものでもない、それどころか何もないところをただ昇っているだけなのだが。さて頂点まで昇ると徐々に進み始める。周りには映画のジュラシック・パークの光景、があるだけで面白くも何ともない。その作りもそれほど大したものではない。たまに恐竜が水の中から出てくるが、だからどうした、といったところである。何だこりゃ、と思っているうちに、暗いシェルターに入り昇り始める。ああ、これを昇ったら最後のスゴイ下りだな、と予想がつく。そして昇り終わり、左ヘアピンを曲がり、暫くするとやっぱり来た。水しぶきを上げながらスゴイ勢いで下り始めた。そして我々が乗る前に見た光景となる。これで終わり。何なんだこれは。子供騙しもいいところだ。濡れて損したぞ。日本にもこんなのはいくらでもある。
まあ確かにジュラシック・パークだなあ。でもそれが何だと云うんだ?
ちょっと憤慨しつつ外に出て、そばに食い物屋があったのでそこで飯を食うことにする。しかし、メニューの品物とカフェテリアに並ぶ品物が全然一致しない。菓子パンしかない。あのメニューの品は無いのか、と聞いてみると朝はコレしかないそうだ。仕方ないので適当に買って食う。甘い。マズイ。本当にマズイ。しかし米国人はこんなのを喜んで食うとは。こんなに甘いものばかり食っていたら太るはずだ。どうりでまわりの米国人にはデブが多いわけだ。米国はデブは怠け者の象徴として嫌われる、と聞いていたのだが、そんなのウソだ。デブになるべくしてなっている。
せっかく来たので、他のものも見てみる。映画の特殊効果を実演する所はなかなか面白かった。これの方があのクソみたいなジュラシック・パークより全然面白い。しかし日本人はこういう所には一人も居ない。これだからマニュアル頼りの連中は困る。そしてウォーターワールド、西部劇と続け様に観る。ウォーターワールドは人間が実演するのだが、飛行機が落ちるわジェットスキーは飛ぶは観客に水をぶっかけるはで、日本では絶対に認可されないに違いない。最初がつまらなかったが、それなりに満足してユニバーサルスタヂヲを後にすることにした。
さていよいよマリブビーチに向かう。何でも地球の歩き方によれば波乗り発祥の地らしいが、この本の言うことは信用ならないのは先程判明している。しかし俺も発祥の地なんぞ知りはしないので、とりあえずそう信じて向かう。まずはフリーウェイでサンタモニカに出て、そこからハイウェイで向かう。海沿いの道を地元のFMレィディヲを流しつつ、サンルーフを開けたサンダーバードで走る。たまらない気持ち良さだ。こういう気分はツアーで形どおりに進む連中には絶対に味わえないに違いない。地図では近いように見えるが、マリブビーチは結構遠い。海沿いを延々走り続けると、ついに到着した。5ドル払って駐車場に入れる。早速海に向かう。
抜けたような青空に、深い青の海。そして白い砂。鵠沼に慣れた俺には信じられない光景がそこにあった。小さいが、形の良い波に地元のサーファーが乗っている。サイズは腰くらいだろうか。岸から50メートルくらいの位置から、全然崩れないキレイな波に乗ってレギュラー方向に流れてくる。この時ほどサーフボードを持ってこなくて後悔したことはない(持ってこれるわけがないのだが。仕事で来たんだし)。良く見ると誰もリーシュコードを付けていない。それでも成り立ってしまう程人が少ない。まあ今日はこの場所にしては波が小さいで人出が無いのだろう、と勝手に判断する。中には二人同時にテイクオフして、一人がもう一人の板に移ってタンデムライディングしていたりする。ホント、波乗り天国だ、此処は。
こんな奇麗な海があって良いのか? いいんです!
このまま引き下がるのも悔しいので、サーファーの居ない位置に行ってボディサーフィンを試みる。しかし、サーファーが居ないだけあって波も無い。暫くトライしていたが、どうにもならないので諦める。そして、ビーチを散歩してみることにする。東へ向かうと、サーファーが居ないにもかかわらず波が立っている所がある。そしてそこではガキが数人ボディーサーフィンにトライしている。一度上がったが、またやってみたくなり入ってみる。するとそこは海底が石ころだらけで歩きにくくて仕方がない。泳いでブレークポイントに向かう。
波が割れる所まで来たが、やはり足が底につくくらい浅い。だからサーファーが居ないのだろうか。とりあえずボディーサーフィンしてみる。今度は出来る。どうだ、俺は波乗りの聖地で(ボディー)サーフィンをやったぞ! なんて一人で自己満足に浸る。何度かやるうちに徐々に疲労を感じて岸に上がる。心地よい疲れだ。
途中でシャワーを浴びつつ、車まで戻る。ついでに何枚か写真を撮る。何回見てもキレイな海だ。海って本当はこんなにキレイなものだったんだ、と思う。ずっとボーっと眺めていたかったが、腹も減ったし、他に行きたいところもあるので戻ることにする。すると、先程歩いていった反対側に「Surfboard Rental」の文字が! 何ということだ。帰るときに気付くとは。一生の不覚だ。もう二度と此処には来れないかもしれないと言うのに....
後ろ髪を引かれつつサンタモニカへ向かう。このあたりのサーフショップで土産のTシャツを買って帰らねばならない。だが、どういうわけかサーフショップが全然無い。さんざんうろついた揚げ句一軒見付けた。車を停めようとするが、駐車場が無い。道端にパーキングメーターみたいなものがあるので、そこに停める。が、使い方がさっぱりわからない。よくわからないので放っておく。そして店に向かうが、手持ちの現金が少ないのに気付き、先輩に100ドル札を借りる。
店に入ってサーフボードを見る。ロングボードが700ドルとかで売っている。こういうのを見るたびに日本って一体何なんだろう、って思う。何をどうやったら値段が倍以上になるのだろうか。誰か100文字以内で簡潔に教えて欲しいものだ。どちらにしろサーフボードなんて買っても持って帰れないのでTシャツを探す。しかしサイズがXLばかりなのには参る。何とかLのものを見付け、さらに俺の帽子を買うことにしてレジに向かう。100ドル札は嫌われる、という噂があるのでカードで買おうとするが、パスポートか国際免許が必要だという。試しに日本の免許を出してみるが、当然あっさり断られる。仕方ないので100ドル札で良いか、と聞くと、OKであった。一安心。
店を出て、ついでなのでベニスビーチへ向かう。もう夕暮れ時なので、夕日に映える椰子の木とキレイな砂浜、そして穏やかな海が美しい。砂浜の脇の道ではローラーブレードやチャリンコが行き来している。そしてその道には例によってゴミ一つ無い。道端にサーファーモドキがヤンキー座りして煙草吸っている鵠沼とは大違いである。こういうのを見ると日本に帰りたくなくなる。そろそろ腹も減ったので飯を食いに行くことにする。
ベニスビーチって、ロスの中心からすぐそこなんだから、日本で言うところのお台場みたいなもんだよなあ。でも何でこうも違うんだ??
今日の晩飯は地球の歩き方お奨めのステーキ屋だ。何でも地元の人が毎晩のように列をなしているらしい。昨日と同じ道でダウンタウンへ向かう。地球の歩き方には騙され続けているので店がちゃんとあるのかどうか心配したが、その店はきちんと存在した。駐車場に車を停め、店に入る。すると、既に店内は一杯で、6人くらい待っている人がいる。待つ間に壁に貼ってあるメニューを見る。サーロインが10ドル、確かに安い。他にもいろいろあるが、何だかよくわからない。
暫く待つと、席に案内される。本当はここは4人用なんだが....とかぶつぶつ言いながら案内された。座っていると、いきなり大量の生野菜とパンが出された。こんなに食えるわけが無い、というより、これだけあればステーキなんか無くても腹いっぱいになる。そして店員はそれだけ置くと、注文も聞かずに去ってしまった。どういうシステムなんだか良く判らないのでそのまま何もせずに待っていると、他の人が聞きに来た。先輩はサーロイン、俺はニューヨークとかいうものを頼む。先輩はどうせ飲めないほど食い物が来るのだから、止めておけばいいのにコーラなんぞ頼んでいる。実は何の飲み物があるか聞くのが面倒だからコーラにしたのだが。さらに店員は何とかかんとか、と言っている。はぁ?という顔をすると、ミディアム、レア...という。おお、そういうことか。とりあえず無難なミディアムにする。さらに何とか、コーン、何とか、と言っている。これはおそらく付け合わせだろうと思い、一つだけ聞き取れたコーンにする。
間も無くステーキが出てきた。目茶苦茶分厚い。先輩のサーロインに比べて、俺のニューヨークの方が一回り小さくて厚い。だが、それ以外の違いはよくわからない。それにしても、目の前に並んだステーキに生野菜にパン、これを見ているだけで腹いっぱいになる。とりあえず食うことにする。ステーキを切ろうとするが、分厚いせいもあって切るのが大変だ。食ってみる。筋っぽくてぼそっとしている。うーん、なんかイマイチだ。米国の肉は日本人に合わない、と聞いていたがどうもそのとおりのようだ。ステーキソースをぶっかけたりしながら食う。しかし、半分も食ったところでもう十分だった。先輩は既に白旗を上げている。コーラなんか飲むからそういうことになるのだ。だが俺は持ち前の貧乏根性で無理やり全部詰め込む。うーん、こんな筋っぽいものを沢山食って、俺の胃は大丈夫なのだろうか。ただでさえ食い慣れていないものには弱いのに。これだけではバランスが悪いので野菜を無理やり詰め込む。さあ店を出ようと思うが、伝票も何もない。周りを見ていると、どうも食い終わったころに伝票を持ってくるようだ。とりあえず待ってはみるのだが、こういう時の待ち時間はやけに長く感じる。暫くして伝票が来た。チップ3ドルと共に金を払って店を出る。
飯も食ったことだしホテルに戻る。今日はもうチェックインしてあるので黒人のおにいさんに文句を言われる筋合いはない。偉そうに車を停め、部屋に戻る。とりあえずNHKをつけて落ち着く。ホテルの目の前に「Famiry Mart」なるものがあったので、そこに行ってみることにする。行ってみると、日本製のお菓子やら飲み物が置いてある。奥の方はレンタルビデオになっているが、エロビデオばかりかと思ったら日本のテレビ番組の録画が沢山ある。日本を出てからたかだか2日しか経っていないのだが、妙に懐かしいような気がする。俺はジュース1本と、フリーペーパー(本当は50セント)の「夕刊サン」を貰う。夕刊サンによると、何と我らが横浜ベイスターズがヤクルト燕達との差を詰めている。思わず店内でガッツポーズしてしまう。
そして、先輩は会社の人に×ビデヲを買ってくる約束をしてしまったので、隣にあるその手の店に向かう。店内には結構な量のビデヲがあり、店員は日本語でこれはいくら、あれはいくら、なんて説明している。しかしこの店には先輩のお眼がねにかなうようなものはなかったらしく、別の店に行く。ここの方が先程の店より多い。先輩は迷っていたが、面倒なので「店長のお奨め」にする。日本へお持ち帰りですか、というのでそうだと答えると、裏の方にテープを持ち込んでゴソゴソやっている。そして出てきたものは「ロサンゼルス」とか書かれた表紙がついて、御丁寧にビニールで新品同様にパッケージングされたテープだった。思わず大笑いしてしまった。確かにコレなら大丈夫だ。
こうして夜も更けていく。明日はいよいよ研修先のシアトルへと向かわねばならない。翌日の予定を考え、米国初の風呂に入り、ロス最後の眠りにつくのであった。