America Report Part 4 いざマイクロソフトのお膝元へ

ロス最後の朝がやってきた。今日はいよいよ研修先であるシアトルへ向かう。シアトル行きの飛行機は1時過ぎの発とちょっと中途半端な時間である。これでは午前中何かをしようにもどうにもならないし、飛行機に乗るのにあたふたして乗り遅れたらどうしようもないので、朝飯を食ってさっさと空港に向かうことにした。まったくあの旅行会社、使えねえなあ。

例によってNHKを見ながら朝飯を食す場所を決める。ホテルからちょっと行ったところに地元では有名なハンバーガー屋があるらしいのでそこに行くことにする。そうと決まればいざ出発、なのだが、そのまえに緊張のチェックアウトという儀式をクリアしなければならない。日本人が居るといいなあ、と思いつつ荷物をまとめてフロントへ向かう。

フロントには、あーよかった、日本人が居た。落ち着いてチェックアウトする。そしてこちらは緊張しつつ黒人のニイチャンに車を出してもらう。もうこの緊張はこりごりだが、何とかクリア。儀式は成功裡に終わったようだ。今日は俺が運転してハンバーガー屋へ向かう。

ハンバーガー屋は交差点の角にあった。まだ朝早いので空いている。駐車場に車を停めてメニューを見ようとすると、先輩は何故かこんなところで緊張している。駐車場の傍らで何人かがハンバーガーをむさぼっているのだが、それがどうも気になるらしい。そんなことを気にしても仕方がないので俺はさっさと頼もうとすると、店の人が何にするんだと聞いてきた。ハンバーガーとコーヒーを注文する。本当はコーラにしておけば何も聞かれることが無いので気が楽なのだが、ここは勇気を出してコーヒーだ。しかし緊張に反して特に何も聞かれず、無事注文は終了したようだ。まあよく考えてみればコーヒーはコーヒーでしかないのだが。しかし、その後またナントカカントカと言っている。何? というジェスチャーをするとまた同じ事を言う。むむっ、さてはこれは英会話の本に載っていた「To here or to go?」だな、と予想し、here、とか言ってみる。うなずく。をを、これで良かったようだ。しばし待つと出てくる。本に書いてあるとおり、でかい。4ドルナントカセントなのだが、小銭を出すのが面倒なので5ドル出す。こうして小銭が増える。

モノを持ってそのへんの立ち食いテーブルに行って食う。暫くすると先輩も買ってきた。To here or to go 攻撃もクリアしたようだ。しかし例によって飲み物は店員応対安全保証のコーラである。しかしこのハンバーガーはでかい。こんなものばかり食っているんだから米国人はデブばかりなはずだ。昨日のステーキといい、でかけりゃ良いというものではないと思うのだが。しかし今日のは味が良いので許してやることにする。

腹を埋めたところで、さっさとレンタカーを返しに行くことにする。よく考えるとレンタカー屋から空港にはどうやって行くのかわからないのだが、まあまたバスがあるだろうと気楽に考える。しかし問題はそれではない。レンタカー屋の場所がわからないのだ。出るときにどこからフリーウェイに乗ったのか、なんて緊張しまくっていたので全然覚えていない。こんなところでいつまでもウロチョロしているとシアトルにはたどり着けない。いよいよ焦りが入る。俺は自分の道路感を信じて、先輩の道案内を半ば無視してとある方向にむかうが、これが大ハズレ。来てもしょうがない空港のそばに来てしまった。その後は素直に助手席の人間ナビを信じてあっちこっち動いている間に、何とかレンタカー屋到着。

Return、とかいうところに入っていくと、係員が誘導する。車を停めると係員が変なワゴンを持って近づいてくる。とりあえず受付時の紙切れを渡すと、POSシステムみたいなものに通して、それでOKが出た。受付時にガソリン満タン不要オプションをつけておいたので何の問題もなかったらしい。荷物を降ろして周りを見渡すと、人が何人か並んでいるところがある。どうもここから空港行きのバスが出るらしいと勝手に判断して、我々も並ぶ。

暫く待つとバスが来る。本当に空港行きかどうか確信は無いのだが、まあ何とかなるだろうと乗ってしまう。他の人もゾロゾロと乗ってきて、さあ出発か、と思ったところに運転手の黒人のニイチャンが俺の所に近づいてきて何か言っている。Airline、というキーワードが聞き取れたので、いちかばちかでUnited Airline、と言ってみると、うなずいた。をを、またも米国人のうなずきをゲットした。俺の英語能力も中々のものではないか、と自己満足する。

少なくともこのバスは空港へ向かうようなので、安心してバスが到着するのを待つ。空港に着いたと思ったら、どうもロサンゼルス国際空港は飛行機会社によって場所が全然違うらしい。やっと最近2つになった千葉成田田舎空港とはスケールが違う。Northwest、Delta、ナントカ、カントカ、と次々運転手が停っていくのだが、Unitedの出番がなかなか来ない。実はさっきの英語は通じていなかったのか、と段々不安になってくるのだが、もう空港の建物も終わろうかというところで運ちゃんから「United」の声が。ああ、良かった。何とか空港には着いた。

しかしまだ時間が早すぎる。フライトまであと3時間もあるではないか。仕方ないので空港で時間をつぶそうとするが、面白そうなものは何もない。空港の周りにも、当然何もない。やはり早すぎたか。飛行機に不慣れな者2人なのだからこのあたりは仕方がないと諦め、発券手続きみたいなものをする。いろいろ聞かれるが、このへんの英語は大体ワンパターンだから何とかなる。荷物はどうするんだ、と聞かれたので今度は素直に大物を飛行機会社に託す。身軽になったところで、また空港内をぶらぶらする。

すると本屋らしきものがあるので入ってみる。一冊くらい日本語のものがあっても良いと思うのだが、そんなものは無い。日本には英語の書籍や新聞があるんだから、そのくらいしてくれたっていいじゃないか、と思うのだが、無いものは無い。仕方がないので表紙がSteve JobsのNewsweekと、Macworldを何となく買ってしまう。あまり読む気は無いのだが、飛行機はどうせどうしようもなく暇だろうから、何もないよりはマシだろう。ついでにガムやらお菓子類を買う。

Newsweek こんな表紙だから思わず買ってしまったが、読めと言われても困る。え? 著作権? 知らねえ、そんなの。

暇つぶしのネタは何とか手に入れたが、離陸まではまだまだ時間が余っている。しかし他には何も面白いものは無い。もうどうにもならないので、X線マシンを通ってシアトル行きの待合所へ向かう。指定のゲートの周りにはデブやら太った奴やら体重の重そうな奴やらがうじゃうじゃ居る。思わずそんな変なことを考えてしまうくらいデブが多い。米国人は嘘つきだ。デブは怠け者の象徴だから嫌われるなんて絶対嘘だ。そうでなければ、米国人は殆ど嫌われ者になってしまうではないか。そしてそのデブがまた必ず片手に飲み物を持ち、もう片方には何かしら食い物を持ってうろちょろしている。懲りない連中だ。

我々も見ているうちに腹が減ってきたので、その懲りない連中の仲間入りして何か食うことにする。ハンバーガー屋やらピザ屋やらバーやらがあるが、とりあえず米国のチェーン店はクリアするべきだ、とか何とか言って最も簡単に食えそうなバーガーキングを選択する。しかし店に入ってもそのシステムがまるで理解できない。しばし観察していると、紙に包まれたハンバーガーを適当に選択し、ドリンク類はコップだけ買って勝手に入れろ、という方式らしい。ハンバーガーには聞きなれない名前がついていて何だか良く判らないので適当に取り、コップを買ってナントカティーを入れる。すると、コップが壊れていて底からナントカティーが漏れてくる。どうして米国製のモノはこうもつくりが粗雑なのか。取り換えてもらってもう一度入れる。今度は漏れない。

食い終わったところでゲートに戻り、飛行機の発着状況を確認しようとするが、我々の乗るはずのシアトル行きは画面に無い。どういうことだ、と思い総合案内画面を見に行くと、何とゲートが変わっている。なんでこうどこまでも大雑把なんだろう。米国人と独逸人が仲が悪いのも無理はない。だがとりあえず飛行機は予定どおり離陸するようだ。またボーッとして待つ。全面禁煙なのがさらにつらいところだ。

かなり待ち続けたところで、ようやく搭乗時間となったようだ。良く判らないのだが人が並んでいるのでそこで待つ。前の方ではチケットを出して何かやっている。さっき座席の指定を受けたのに、また何かするのか、と思っていたら、ここは座席の指定を受けていない人が並ぶ場所だったらしい。それならそうとどこかに何か書いておいてくれりゃあいいのに。そこを通り過ぎたところで、またもや待たされる。俺は待つのが大嫌いだから今日はいらいらし通しなのだが、米国人は皆のんきなものである。このへんは見習わなければならない。そしていよいよ搭乗が始まったようだ。ファーストクラスのブルジョアジー連中に続いて、我々貧乏人が機内に乗り込む。

今度の席はかなり前の方だ。今回はでかい荷物も無いから、ババァに文句を言われる筋合いは無いだろう。機内には人がどんどん乗ってくる。米国に来るときとは違い、日本人は一人も居ない。多分我々だけだろう。しかしどうも手際が悪くてなかなか席につかない。俺は誰々の隣りじゃなきゃ嫌だ、とかダダをこねているらしい。いい大人なんだからたかだか2時間くらい我慢したらどうなんだ。ああだこうだとやりあってようやく全員席につく。そしてエンジンが唸り始め、徐々に動きだす。ああ、また嫌な瞬間だ。出来ることならシアトルまで電車かバスで行きたかったのだが、ここまで来たらもうしょうがない。飛行機は滑走路にポジショニングを定める。またゼロヨンの如く、否、米国だからドラッグレースの如くエンジンが轟音をあげる。そして猛ダッシュ。何度体験しても嫌なものは嫌だ。無事離陸。

そしてシアトルまで2時間の五月蝿いだけで暇な時間だ。とりあえず機内誌に目を通すが、米国の国内線なので当然全部英語だ。こんなのを読んでもしょうがない。仕方なくさっき買ったMacworldに目を通すが、これもやっぱり全部英語。しかし見慣れたMacintoshの画面だから何となくわかる。適当に流し読みしていると、軽い食事が出てくる。ピザやらお菓子やらあるのだが、ことごとく味が濃い。どうも米国の食事はこういうのが多い。米国人にはお吸い物なんてのは絶対に理解できないに違いない。食い終わってババァどもが皿を集め終わると、周りの米国人はおもむろに機内をうろつきはじめる。何がしたいのかよくわからないが、適当にあちこちに行って喋りまくっている。何やってんだ、一体。これでは新幹線で修学旅行に行って先生に怒られる中学生と大差無い。もう少し落ち着いて欲しいものである。

ガムを食ったり本を読んだりしているうちに、シアトル・タコマ空港が近づいてきた。略してシータックと言うらしい。ロス近辺では上空から見ると岩山ばかりだったが、こちらは緑が多い。徐々に高度を下げ、着陸態勢に入る。また嫌な瞬間だ。地面がじわじわと近づいてくるにつれて緊張が増してくる。またもや無意識のうちに足を踏ん張っている。そして何とか無事着陸。よし、3回中2回の飛行機をクリアした。一安心して飛行機を降りる。

人の流れについていくと、今度は空港内の地下鉄に乗るらしい。何だか良く判らないが、これに乗ると荷物を受け取れる、というより発着所と発券所やらの間を移動するだけなのに地下鉄に乗るようだ。妙な地下鉄はすぐ終わって、また人の流れについていくとベルトコンベアがあった。今回は米国内の移動だけだから何の手続きもなくて楽で良い。なかなか荷物が来ないのでトイレに行き、出ようとしたら大量の荷物を持ったデブが来たのでドアを開けてやったら「さんきゅぅべぇりーまぁっち」とか言っていた。これくらいでvery muchとは何とも大げさな。

荷物を取り出し、次はレンタカー屋のオフィスを探す。今度は空港内のオフィスに人が居た。レンタカーは2回目だから楽勝だろう、と思っていたら実はここに今回の最大の試練が待っていた。今度の相手はラテンのオヤジではなく黒人のニイチャンである。前回と同じように予約時の紙切れを出し、淡々と処理を進めるが、最後の最後によくわからないことを言っている。何言っているのか良く判らないので半分想像で何か言ってみるが、話はいつまでたっても平行線である。しまいにはニイチャンが紙に何か書きだした。1週間借りるなら5日でも一緒だろう、みたいなことを言っているのだが、それは一緒じゃねえだろう、我々は1週間借りたいんだ、と相変わらず平行線だ。延々こんなことを言いあっていると、たまたま隣りでレンタカーを借りようとしていた日本人が手助けに入ってくれた。話によると、1週間であれば5日料金で借りれるシステムがあるので、それにすればどうか、と言っているらしい。おお、そういうことか。やっと理解できた。それならそうと最初からそう言ってくれ、と思ったがニイチャンはそう言っていたのだろう。何とか受付は終わり、どこそこで車を受け取れ、という話になる。そこのエスカレーターに乗り、あそこに見える通路を通り、エレベーターで1階に降りろ、という話。俺は理解したのだが、先輩はわからなかったようで余計な質問をしてしまった。ニイチャンはさすがに呆れたようで、我々を先導して連れていってくれた。結局車のあるところまで全て俺の理解した通りだったのだが、申し訳ないので先輩が5ドルほどニイチャンに渡す。しかしこのニイチャンは他の社員が見ていることもあってか、しきりに拒む。ああだこうだとやっているうちに結局受け取って帰っていった。先輩に言わせると、拒むような仕草をしつつも手はしっかりと5ドルを握っていたらしい。

別の係員の案内で車まで向かう。考えてみれば今回は車を選ばせてくれなかった。そしてそこにあったのはMercury Sabreであった。要するにフォード・トーラスだ。いつ見ても変なスタイルだが、選ばせてくれないのだから仕方がない。いざ荷物を載せようとするとカギがついていない。係員に文句を言ってカギをもらい、荷物を積んで出発する。今回の車は俺には今まで縁のなかったコラムシフトなので、いつもコラムシフト車を運転している先輩が運転する。いざ煙草を吸おうとすると、何と禁煙車だ。灰皿も無い。何ということだ。あと1週間禁煙車で過ごすことになろうとは。

Mercury sabre and me どうみたってカッコ悪い車だ。少しはいすゞピアッツァを見習ったらどうだ。

まずはとりあえず落ち着き先のホテルに行くことにする。研修先とホテルは実はシアトルではなく、シアトルからはワシントン湖を挟んで反対側に位置するベルビューという所にある。例のMicro$oftの建物門達(ビル・ゲイツ)の家のある場所の近くだ。ベルビューなんて聞いたことなかったが、実はワシントン州では5本の指に入る規模の街だそうだ。我が社の部長殿に頂いた地図に従ってフリーウェイを突き進む。道はロスと違ってガラガラである。とりあえずベルビューの近くまでは来たのだが、ホテルの位置がよくわからない。4th Streetとか書いてあるのだが、肝心のその通りが地図に載っていないのだ。よくわからないうちに近くまで来てしまったのだが、結局降りるところが判らずに通り過ぎてしまい、別のフリーウェイとの合流地点まで来てしまった。しかたなく引き返し、適当な所で降りる。適当に見当をつけてうろついてみる。どうも米国のナントカストリート制度はわかりにくい。しかしうろついているうちに段々判ってくるもので、そこを左だ!と断言して左折してみると、道路の右側にベルビュー・ヒルトンはあった。ホテルの前は駐車場になっている。停めていいのかどうか良く判らないのだが、誰も居ないし、大丈夫だろうと決め付けて車を停める。

ようやく居場所を見付けた我々であったが、部屋にはいる前にチェックインの儀式が待っている。今回は予約してあるので話は早いはずだ。フロントに向かい、先輩が名前を告げる。しかし、フロントのネエチャンの話し方が猛烈に早くて、会話が全然成り立たない。先輩はお手上げのようだが、俺は同じことを2回言ってもらうと何とか理解できたので、そのあとは殆ど俺が話を進める。部屋はシングル2つか?支払いはカードか?別々のカードか?等の早口クイズに答えると、ようやくカードキーが貰えた。さっきのレンタカーの件があったので、このくらいは屁でもない。後で会社の場所確認等をしなければならないので、30分後に待ち合わせということにして各自部屋に入る。

エレベーターで3階まで上がり、部屋に入る。今回の部屋は大きな机があったりしてなかなか洒落ている。窓の外を見ると、すぐそばに先程右往左往したフリーウェイがある。色々あって疲れたのでツインベッドみたいなシングルベッドに寝転がってテレビをつける。しかし、今回はさすがに全チャンネルが英語である。番組表を見ても、NHKなんてのはどこにもない。嗚呼、あと6泊も英語だらけで過ごすのか。研修も英語だし、全てが英語漬けの生活だ。さらに灰皿が無い。何てこったい、車だけじゃなくホテルまで禁煙か。先が思いやられることこの上ない。

Hilton room 一泊120ドル近いわりには大したことない部屋だな。まあ俺の金じゃあないから偉そうなことは言えん。

このまま寝てしまってはロスの二の舞いなので、さっさと会社の場所を探しに行くことにする。しかしその前に唯一喫煙を許可された場所、ホテルの玄関前で一服する。某S社から送ってきたFAXによると、ホテルから会社まではすぐそこのように思える。とりあえず車で行ってみると、あっという間に到着。本当にすぐだった。車で来るほどのこともない。場所を確認して一安心したところで、そのまま晩飯を食いに行くことにする。そろそろ米国の巨大な肉攻撃にも飽きてきたので、日本食を食おうということで意見が一致する。とりあえずシアトル市街に向かって車を進める。シアトルに行くにはワシントン湖を渡らねばならないので、橋のかかっているフリーウェイに向かう。相変わらず道は空いている。ワシントン湖を渡る橋は実はきちんとした建造物ではなく、浮き橋らしい。ワシントン湖の周囲は緑が豊富で美しい。しかしビル・ゲイツの奴はこんな偉そうな所に住んでいるとは。奴の建築中の家もどうせいろいろな有名な建造物の寄せ合わせと物真似に違いない。

Bridge on the lake wasignton とりあえず車の中から写真を撮ってしまった。

橋を渡り、ワシントン大学の建物群を横目に見つつフリーウェイのジャンクションを抜けると、そこはもうビルだらけのシアトル市街であった。遠方にはスペース・ニードルも見える。俺は助手席で食い物屋を物色するが、どうにもまともな日本食屋が無い。やっぱり地球の歩き方は使えん。しかし、色々見ているうちにどうも日本の食材を扱う店「宇和島屋」があるようで、その辺り一帯はインターナショナル・ディストリクトという多国籍地帯らしい。そこらへんに行けば何かあるだろう、ということでとにかくそちらへ向かって走る。アップダウンの激しいシアトル中心街を抜け、右側にシアトル・マリナーズ本拠地のキングドームが見えたあたりがインターナショナル・ディストリクトだ。適当に車を走らせてみると確かに漢字が多い。しかし、良く見てみると全て漢字だけで、平仮名、片仮名が一つもない。おお、ここは部長に絶対近づくなと言われていたチャイナタウンではないか。インターナショナル・ディストリクトなどと偉そうな名前つけやがって。道をゆく人達もアジア系が多い。しかも中国人系が多い。近づくな、という先入観があるせいで、目茶苦茶怖く見える。否、実際怖い。さっさとここは立ち去ろうとするが、何としても宇和島屋だけは見付けておきたい。うろついているうちにようやく見付ける。ちょっと怖いが、意を決して駐車場に入る。

店の中には、おお、日本食が! カールもえびせんも、キリンビールにチョーヤの梅酒も、何でもあるではないか。これは良い。砂漠にオアシスを見付けたような気分だ。そしてさらに嬉しいことに、建物の2階には紀伊国屋があるではないか。おお〜、日本語の書籍だ! 適当に雑誌を購入。これで英語包囲網を少しは打破することができる。そして先輩は俺の気付かぬうちに密かに朝日新聞国際衛星版を購入している。教えてくれたっていいのに。また1階に降りて梅酒とつまみを購入、しようとすると先輩がレジであたふたしている。またどうせ英語が聞き取れなくて困っているんだろう、と思ったら、外国人が酒を買うにはパスポートが要るらしい。先輩はこともあろうにホテルに置いてきてしまったらしい。そんな重要なものをホテルに置いておくとは。俺はサンタモニカのサーフショップで痛い目にあっているので持っていた。仕方ないので一緒に俺が購入することにする。それにしても、外国人が酒を買うにはパスポート、とは変な理由だ。実は我々が未成年者に見えて、パスポートで年齢を確認したかっただけなのではないのか?

良い店は見付けたが、食い物屋は相変わらず見付からない。宇和島屋の中にあったフリーペーパー(これも日本語!)を見ていると、何とベルビューに一軒、バイキング形式の寿司屋「Eating Factory」があるらしい。良く考えるとバイキングの寿司っていうのも変なのだが、ここではそんなことも考えずに直行することに決定。NE8th Streetっていうから、ホテルからはすぐ近くだ、と思えるが、肝心の番地は地図には書いていないので良く判らない。とにかく8th Streetをひたすら走っていればあるだろう、ということにして、再びワシントン湖を渡ってベルビューに向かう。このあたりだろう、と見当をつけて行ったり来たりしていると、その店はあった。流石、地元のフリーペーパーは地球の歩き方のように嘘はつかない。

Free Paper こういったフリーペーパーが無ければ、飢え死にしていたかもしれない。

いざ、店に入ってみる。おお、店員は日本人の留学生か、と思ったら日本人ではないらしい。英語しか喋れないようだ。店内ではなぜかミュージックステーションのビデオが流れている。日本に居たら目もくれない番組だが、こういう状況だけに実に有り難く感じる。しかしどうせタモリが司会をする番組ならミュージックステーションではなくタモリ倶楽部にして欲しいものである。席に案内されて、ナントカ、と言われたが例によってわからないので聞き返すと、ドリンク、とか言っている。相手が若造なので俺も少し調子に乗ってダイエットコークはあるか、とか聞くと、あるというのでそれにする。

で、肝心の寿司バイキングである。中には理解不能な寿司もいくつかあるが、概ね日本の回転寿司と変わらない品揃えである。ただ、米がアメリカ米なので味的にはもう一つと言ったところか。魚の切り方も変だし、大きさも小さい。とはいうものの、肉やら甘い食い物に飽きた我々には寿司のあっさりした味は何とも心地よいものである。それなりに満足して店を出る。

ホテルに戻り、玄関前で今日最後となろう一服をする。それにしても米国の禁煙攻撃はどうにかならないものか。禁煙より甘いものを控えるほうが先決だと思うのだが。最後の一服も終え、翌日の出発時間を確認して部屋に戻る。さあ、明日からはいよいよ研修だ。知っているソフトウェアとはいえ、やはり全て英語だと思うと緊張する。しかも最初に自己紹介をしなければならないらしい。さあどうしようか、と対策を練る前にとりあえず風呂場で洗濯をする。ホテルにはコインランドリーは無いらしいし、頼むのにはフロントに電話をしなければならないので、ここは風呂場でするに限る。洗濯と入浴を終え、いよいよ自己紹介のネタを「海外出張の英会話」を見ながら考えるが、今一つ良いものが思い付かない。梅酒を飲んでいる間に猛烈に眠くなってしまったので、もうどうでもいいや、と半ばヤケクソ状態になってしまい結局何も結論が出ないまま寝てしまったのであった。ヒルトンの布団は、硬くて変な布団だった。

Part 5 笑ってお仕事、できません



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