2000/5 珍客にタジタジ
さて、錆取りも大体終わったし、このまんまじゃみっともないから色でも塗りますか。まあ色塗りとは言っても、ボデーの見える部分自体はあとで全塗装するので、そうそう見えない部分を何となく塗るだけの話なので、そんなに気合を入れてするほどのものでもない。天気もいいし、風も無いし、まあのんびりやりますかね。
部屋に置いてあったスポーツ新聞を持ってきてマスキングを開始する。どうせ全塗装すると思うとマスキングにもあまり熱が入らない。せいぜいアダルト面を表に出さないように気をつける程度のもんだ。いくら何でも白昼堂々アダルト面はマズイでしょ。極めて適当にマスキングを終え、なるべく風がない瞬間を見計らった上でサイドシル、給油口周り、リヤフェンダー、リヤ周りと、とりあえずサフェーサーをバーッと塗る。
とりあえず塗ってしまうと、あとは乾くのを待つだけなので何もやる事が無い。サフェーサーだからすぐに乾くんだけど、それにしたって数時間は放置しないと研ぎようが無い。そんなにボーッとしていてもしょうがないので、リヤフェンダーのインナーを付けたり、相変わらず仮留め状態だったフロントバンパーをちゃんと固定しようとしたりしていると、突然後方から声がかかる。
「おじちゃん、何やってるの?」
おじちゃんとは何だ、おじちゃんとは。失礼な、俺はまだ若いつもりだぞ、と思って声の方を見てみると、そこにはキックボードに乗った5歳くらいの女の子。そりゃ確かに5歳から見ればおじちゃんだよなあ、何て思いつつも、まだ分別の無い子供に「何やってるの?」なんていう極めて根本的な事を聞かれると答えに窮してしまう。レストアなんて言っても判るはずが無いし、そもそも俺がやっていることは本当の意味でのレストアとはほど遠い。とりあえず「壊れたから直しているんだよ」なんていう当り障りの無い答えをしていると、その女の子は矢継ぎ早に俺にとって最も答えにくい質問ばっかりしてくるのだ。
「何でおんなじのが2台あるの?」
「何で白いほうは壊れちゃったの?」
「何で白いほうは動けないの?」
「こっちの黒いのは動くの?」
「何で新しいのがあるのに古いのもあるの?」
お前エライぞ、この2台が両方とも同じ車だと判るだけでもエライ。中々素質があるではないか。そういうエライ子には真面目に答えなくちゃいけない。しかし、こういうことこそ基本的すぎて逆に答えようが無いのだ。だからって、何で2台あるんだ、って聞かれて「欲しかったから」なんて答える俺の精神年齢は明らかにこの子と同等だ。この白いのは壊れちゃって動けないんだよ〜、かわいそうでしょ〜、なんて、言葉遣いさえもこの子と同等になってしまう。そして、何だか妙な情けなさを感じる俺の心を察することもなく、この子はさらに質問を続けてくるのである。
どういうわけか地面に転がっているテールライトを指差して
「これは何に使うの?」
これまたゴミとして転がっているFRP用ポリ樹脂を調合した紙コップを見て
「これは何? 糊?」
マスキングした新聞紙を指差して
「なんでここに紙が貼ってあるの?」
そんな質問にいちいち真面目に答えていた俺も、さすがに子供に判るように答えることに限界を感じてくる。具体的になればなるほど困る。そもそもこの子は俺が何を答えようと真面目に聞いちゃいないだろうし、専門用語を並べたって完全には理解できるわけがないのだ。しまいにゃ返答に困って「錆って何だか判る?」なんていう、どうしようもない質問&錆談義をしたりする始末。嗚呼、俺よ、未来多き女の子に錆のことなんぞ理解させてどうしようと言うのだ。この子が将来変な方向に成長しちまったら俺のせいかもしれないぞ。とどまることの無い自分の情けなさに思わず頭を抱える俺。そしてその横をニヤニヤしながら通り過ぎる隣の家の住人。
最後にその女の子は「私バレリーナになるんだ〜」なんて言って、暫くJR130の周りをうろちょろして、ヘッドライトを指差して「何で割れてるの?(実際にはレンズカットですけど)」、転がってるバンパーを指差して「何で外れてるの?」だなんて、幾つか問題点を指摘した後に、5時のチャイムと共にキックボードに乗って去って行ったのでありました。あー危なかった。アダルト面が出ないようにマスキングしておいた助かったぞ。
痛いところばかり指摘されて完全に打ちのめされてしまったが、気を取り直して作業を再開する。中断されていたフロントバンパー取付け作業を再開すべくバンパーの骨を増し締めしたりしていると、バンパーの隅っこに蜂の巣が出来ているのを発見したりして、結局さらに打ちのめされたりする。しかもその蜂の巣にはちゃんと蜂が住んでいたりするから何とも始末が悪い。俺はどうにもこうにも昆虫類が苦手なのだ。しかしコイツを退治しないことにはバンパーの取付けなどままならないので、半ばヤケクソ状態で、トランクに転がっていたオイルスプレーを吹きまくって蜂を撃退する。オイルまみれになった蜂の動きが鈍くなったところで、蜂と蜂の巣をペーパータオルで鷲掴みにして、さっさとゴミ袋に放り込む。こんなところでオイルスプレーが役に立つとは。そしてその勢いをもってフェンダー関係も増し締めして、バンパーをズゴンと差し込んで固定する。
子供と戯れている間にかなりの時間をロスしたので、さらに調子に乗って色塗りもやってしまうことにする。極めてどうでもいい場所ばっかりなので、仕上がり具合はあまり気にしないでガンガンスプレーを動かす。しかし、残念ながら1日では完全に色が乗らないので、スポーツ新聞だらけのみっともない姿で一晩放置して、翌日もまた同じことをする羽目になる。そして何とか色塗りは完了。ようやく錆取り跡のまだら模様も消えて、じわじわと車らしくなって参りました。さあ、あとは細かい部品の交換くらいだ。勿論それも一筋縄じゃいかないんだけど。