そもそも「The Ultimate Touring Machine」を自称するBMW製のK100RSと、世界最速を誇ったNinjaを比較すること自体が意味の無いことなのだが、まあとりあえずやってみよう。
ちなみにこれは、私がK100RSに1,700kmしか乗っていない時点での比較であり、もっと乗れば当然変わることも考えられる。ただ逆に、慣れていないだけに比較がしやすい面もある。
尚、私はGPZ750R(G2)に20,000km、GPZ900R(A9)に18,000km乗っている。当然過去の話ではあるが。
まずはカタログスペックを比較してみる。
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GPZ900R(A9) |
K100RS |
全長(mm) |
2,220 |
2,200 |
全幅(mm) |
740 |
800 |
全高(mm) |
1,220 |
1,155 |
軸間距離(mm) |
1,500 |
1,516 |
最低地上高(mm) |
140 |
175 |
シート高(mm) |
790 |
810(ローシート760) |
キャスター/トレール |
29°/114mm |
27.5°/101mm |
エンジン形式 |
水冷4ストローク4気筒 |
水冷4ストローク直列水平4気筒 |
弁方式 |
DOHC16バルブ |
DOHC 2バルブ |
総排気量(cm^3) |
908 |
987 |
内径/行程(mm) |
72.5x55.0 |
67.0x70.0 |
圧縮比 |
11 |
10.2 |
最高出力 |
86ps/9,000rpm |
90.0HP/8,000rpm |
最大トルク |
7.3kg-m/6,500rpm |
86.0Nm/6,000rpm |
始動方式 |
セルスターター |
セルフスターター |
点火方式 |
電子進角式フルトランジスタ |
デジタルイグニッション |
潤滑形式 |
ウェットサンプ |
ウェットサンプ |
エンジンオイル容量(litter) |
4 |
3.5 |
キャブレター |
Keihin CVK34x4 |
BOSCH LEジェトロニック |
トランスミッション形式 |
常噛6段リターン |
リターン式5速 |
クラッチ形式 |
湿式多板 |
乾式単板 |
ギヤレシオ |
1速 |
2.8 |
4.497 |
2速 |
2 |
2.959 |
3速 |
1.59 |
2.304 |
4速 |
1.333 |
1.876 |
5速 |
1.153 |
1.666 |
6速 |
1.035 |
- |
一時減速比/二時減速比 |
1.732(97/56)/2.765(47/17) |
1.944/2.91 |
懸架方式 前 |
テレスコピック |
テレスコピック |
懸架方式 後 |
スイングアーム |
スイングアーム |
タイヤサイズ 前 |
120/70-17 58H |
100/90-V18 |
タイヤサイズ 後 |
150/70-18 70H |
130/90-V17 |
ブレーキ形式 前 |
デュアルディスク300mm(外径) |
油圧式ダブルディスク |
ブレーキ形式 後 |
シングルディスク250mm(外径) |
油圧式ディスク |
車両重量(乾燥) |
234kg |
225kg |
これを見てどうこういうのは避けよう。カタログの数値は参考であって、実際の乗った感覚はこれだけではわからないのだから。
さて、私のインプレッション。
1.エンジンについて
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絶対的なパワー
Ninjaの勝ち。いかに国内仕様と言えども、マフラーをUS YOSHIMURAに換えて多少なりとも輸出しように近付けた場合の差はやはり大きい。K100RSはロングストロークであることもあって、やはりトルクで勝負するタイプだろう。
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吹け上がり、レスポンス
Ninjaの勝ち。やっぱりボア/ストロークの関係は大きい。K100RSの吹け上がりは時にじれったいと感じることもある。レスポンスは悪くないのだが、そこからの伸びが遅い。Ninjaも目茶苦茶吹け上がりが良いわけではないが、まあ一般レベルだろう。
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トルク感
K100RSの勝ち。まあこれは絶対的パワーの反対の結果。しかもK100RSは低回転からハイエンドまで殆どトルク感が変わらず、運転するほうは楽である。Ninjaもトルク感はあるのだが、やはりどうしても回転数依存の感あり。
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エンジン音
引き分け。K100RSはあまり4気筒らしい音はせず、何となくツインを連想させるような雰囲気のある音。音量的には静かな部類だろう。対するNinjaは国内仕様ノーマルマフラーでもやはりカワサキの4気筒らしい音がする。というわけでそれぞれ良いところがあるので引き分け。
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快適度(発熱量、振動等)
引き分け。すぐ熱くなることで有名なNinjaに対して、実はK100RSはそれ以上に暑苦しい。少しでも渋滞しようものならすぐにファンが回る。しかも足に近いところにエンジンがあるので何とも具合が悪い。夏が思いやられる。しかし振動やメカノイズの点ではK100RSの圧勝。クラウンとカローラくらいの違いがある。
総合評価:
K100RSの勝ち。何故Ninjaの方が勝ちの項目が多いのに結果がK100RSかと言うと、今の俺が吹け上がりの速さや絶対的パワーを求めていないからである。それよりフラットトルクで気楽に走れ、振動やメカノイズで神経が疲れない方が良い。
2.車体について
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直進安定性
K100RSの勝ち。キャスターの数値なんかを見る限りNinjaの方が良さそうな気がするかもしれない。実際、道路状況が一定であればNinjaもK100RSも変わらないのであるが、ちょっとしたギャップ等を越えたときにはその差は歴然としている。また、空力的な問題もあるのかもしれないが某速度×2くらいの速度になるとかなり差が出る(ような気がするだけかもしれない)。低速域では、Ninjaの方が良いかもしれない。逆に言えば今一つ軽快感は欠ける。
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コーナリング性能
K100RSの勝ち。K100RSは見掛けによらず倒し込みが非常に軽快で、コーナー進入のタイミングがつかみやすい。また、コーナリング中の車体の安定度も高い。例えば、コーナーにちょっとしたギャップがあってもあっさり通り抜けられる。それに対してNinjaは、17インチの後期型のせいもあるのかもしれないが、はっきり言って曲がらない。ブレーキング〜倒し込みにやたらと時間がかかる。コーナリング中はそこそこ安定しているが、何かあるとちょっと弱い。以前はこの曲がらないのをこじ曲げるのが楽しみでもあったのだが。
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サスペンションの動き
引き分け。というか、硬めのNinja、柔らかめのK100RS、それぞれ好き好きだから判断できない。リヤサスの追従性はK100RSの方が良いような気がするが、これはNinjaのリヤサスが既に死んでいただけかもしれない。フロントは個人的にはK100RSの方が好き。私の場合、貧乏性で一般道ばかり走るので、道路状態に左右されることが多いことも一因である。概して一般道の方が有料道路より舗装が悪いので。状態さえ良ければ、Ninjaのサスもきちんと機能してくれる。ただ、リヤはすぐに飛ぶし、流れる。
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切り返し等の操縦性
K100RSの勝ち。これは前記のコーナリング性能でも書いたが、走り出してしまえば非常に軽快に動き回れる。Ninjaはいつもワンテンポ遅れてしまう。やはり直進安定性重視なのか。
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低速時の取り回し
Ninjaの勝ち。これは例えばUターンやすり抜け等のことを言っているのであるが、K100RSではその狭いハンドル幅が災いして、ハンドルでこじ曲げて行くことが難しい(疲れる)。Ninjaではアップハンにすると街中では非常に扱いやすくなる。
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エンジンオフ時の取り回し
Ninjaの圧勝。理由はほぼ上に同じ。K100RSの方が軽いはずなのだが、30キロは重く感じる。絶対に坂道を押したりしたくないし、押し掛けなんてとんでもない。Ninjaではしょっちゅうやるはめになっていたが。
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空力特性
本当の空力特性については良く判らない(データを比較しないと何とも言えない)ので、ここではいわゆるウィンドプロテクションについて述べる。
これはK100RSの圧勝。横から見ればNinjaとそれほど大きさの変わらないカウル形状だが、ウインドシールドが角張っていること、丁度手に風が当たる部分をミラーによりプロテクトしていること、ミドルカウル?の幅が広いこと、ウインドシールド上にフラップがあって、これで調整できること、等から明らかにNinjaに比べて走行風の当たる度合いが少ない。結果として高速度をキープしても疲れが少ない。Ninjaの場合、某速度×2をキープしようとすると、どうしても体を伏せずにはいられない。
総合評価:
走るステージによって違う。街乗りではNinjaの勝ち。ツーリングではK100RSの勝ち。要するに、バイクがバイクらしく走れる所ではK100RSの方が良いし、日本の市街地のような年中渋滞地帯ではNinjaが良い。やはりお国柄の違いか。別にNinjaがツーリングに向いていないわけではない。ただ、K100RSより疲れるのだ。理由は色々あるが、どうしてもオーバーアクションに操作してしまう性格も一因かもしれない。
3.その他機能部品の動作
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ブレーキの効き
同点。まず前輪だが、単純に効きだけで言うならNinjaの圧勝(但し後期型4ポッドの場合)。K100RSは偉そうにABSが付いているが、そもそもブレーキ自体が効かないし、さらにブレーキレバーの支点が手の位置に近いので、手をずらすか、思いきり握らないと効かない。また、Ninjaは握り始めからガツンと効くが、K100RSは握りに応じて効いてくる。これも自分の癖になってしまっているので困ったものである。おかげで俺は一度死にかけた。
次に後輪だが、これはK100RSの勝ち。Ninjaの場合は後輪ブレーキは半分飾り。というか、ブレーキング時の車体の荷重のかかり方に問題があるような気がする。K100RSの場合はきちんと効いてくれる。
ということで、前後輪合わせると同点になる。但し、ブレーキング時の車体の安定度はK100RSの圧勝。
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クラッチの感覚
K100RSの勝ち。何しろクラッチ形式自体も全然違えば、Ninjaは油圧、K100RSはワイヤーというわけでフィーリングがかなり違う。これに関してはどちらが良いかは人それぞれなのだが、単純にK100RSの方が軽い、というだけの理由でK100RSの勝ち。
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シフトフィーリング
K100RSの勝ち。K100RSはバイクには珍しくエンジンオイルとミッションオイルが別扱いだが、これのせいかどうかは知らないがK100RSの方が動作が軽くてよい。Ninjaは時に思いっきり力を入れないと動かない場合がある。ただ、1速に入れたときの「ガコン」という音はNinjaの方が気持ち良いのだが。また、Ninjaの場合は有名な話だがシフトレバーが遠い。私はこれに慣れてしまっていたため、逆にK100RSに換えて戸惑った。
総合評価:
これは人それぞれなので、評価無し。
4.乗車姿勢
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足着き
Ninjaの圧勝。シート高自体を比べるとNinjaの方が3センチ高いのだが、K100RSはいかんせんタンクからシートカウルまでの幅が広いのと、シートの角が角張っていることの相乗効果で足付きが非常に悪い。ついでに、その形状のせいである程度の距離を走ると足の付け根が痛くなる。それに対してNinjaはシート回りがスリムに仕上がっていてなかなか良い。
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ハンドルの位置関係
引き分け。Ninjaもノーマルではどうも遠くてかつ低く感じる。かなり腕に力が入りやすい。K100RSはその点では良いのだが、あの幅狭ハンドルはなかなか慣れない。乗ってしまえばこれはこれで良いのだが、上記のように低速時は扱いにくい。
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ニーグリップのし易さと下半身のフィット感
Ninjaの圧勝。Ninjaは絶妙のシート、タンク形状によりニーグリップが非常にしやすい。よって、下半身のフィット感も高い。しかしK100RSはこの点では全然駄目で、私のような日本人の中でも平均以下の体格ではまるで合わない。足が完全にバイクから浮いてしまっていて、コーナリング中も足のやり場が無くて困ってしまう。
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膝の曲がりと下半身の状態
K100RSの勝ち。これはステップやらシートやらの位置関係の問題だが、やはりツーリング指向のK100RSの方が楽になるように出来ている。
- その他乗車位置の自由度等
Ninjaの勝ち。Ninjaはシート形状が良いので尻を動かしやすく、足の位置も良いので色々なポジションを試せる。それに対しK100RSはハンドル幅と角張ったシート形状によって、気が付くといわゆる「BMW乗り」になっている。BMWに乗っている人が皆同じようなフォームで走っているのは、そうしたいのではなくてバイクがそういう姿勢を強いるのだ。そして、その姿勢を崩そうとしてもそうそう崩れないし、崩したところで余計曲がらないのだ。
総合評価:
同点。これもバイクが何を目指し、どこの国で作られたかということが如実に出ているので、どちらが良いとか悪いとか言いきれるものではない。ただやはり傾向としてはロングツーリングで楽なK100RS、街乗りで楽なNinja、ということになってしまう。
5.バイク自体の仕上げ
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塗装の仕上げ
Ninjaの勝ち。塗装自体はそれほど大きな違いは感じないが、K100RSはどういうわけか場所によって色が全然違う。例えばサイドカバーだけ色が白っぽかったり、前後2分割のフェンダーが前後で色合いが違ったりする。経年変化かと思えば、これは新車時からそうだったらしい。
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カウル等の組み付け
同点。K100RSはドイツ車らしく至る所まできっちりと組み付けられていて、まるでガタついた所が無い。それに対してNinjaはカウルがガタガタしたり、一度分解すると螺子と螺子穴が合わなくなったり、走行中に螺子がよく落ちたりとどうも良くない。これは振動が多いことやK100RSより硬めのサスにも関係するのかもしれないが。但し、K100RSの場合は部品の隙間が適当だったりして、何となく気になる。よって同点。
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樹脂部品の質感
K100RSの圧勝。走りには関係ないが、これだけ高い(とはいっても値段が倍違うが)バイクなんだから拘って欲しい点である。国産にばかり乗っていると、K100RSのインナーカウルの仕上げは感動ものである。
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錆び対策
K100RSの勝ち、のように思える。というのはK100RSにはまだあまり乗っていないから憶測でしか判断できないからだ。ただ、Ninjaに限らず国産には必ず錆びるポイントがある(メッキギラギラ部分の表面に傷がついた時とか、裏側にせこい螺子や素材を使っているとか)。K100RSはざっと見た感じではそういうところはあまりなさそうだった。というわけで、現時点では断言できない。しかし書籍によると、BMWは錆びも考慮してなるべく錆びないような部品を使うようにしているらしい。国産メーカーではあまりそういう話は聞かない。というわけであえてK100RSの勝ちにしてみた。
総合評価:
K100RSの勝ち。とは言っても、塗装の色合いはぱっと見で目立つ部分なのだから何とかして欲しいものだ。ちょっと遠くから見ればNinjaの勝ち。
6.装備とその操作性
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積載性
K100RSの圧勝。何もしなければ積載性は大して変わらない(シート下のスペースもそれほど変わらない)のだが、何と言ってもパニアケースにトップケースといったものが純正で用意され、これを見越した設計がされているのが大きく異なる。仮にこれらを使わずにネットだけで対処しても、引っ掛ける箇所が多い(パニアケースのステーがついている)ため、K100RSの勝ち。
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メーター等の有効性と視認性
K100RSの勝ち。メーターの数的にはK100RSの方が多い。それにNinjaの電圧計なんていう滅多に使わないものに比べて、ギヤポジションインジケーターは意外と重宝したりするし、何と言ってもブレーキペダル、ブレーキレバーと連動したブレーキランプタマ切れ警告灯等、心憎いばかりの装備である。しかし気に入らないのはオプションの水温計がブレーキのマスターシリンダーに邪魔されて全然見えないのと、燃料計がブレブレでよくわからない所である。Ninjaは、国産車にしては良い方だと思うが、特筆すべき点はない。
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スイッチ類の操作性
Ninjaの勝ち。やっぱりこれはウインカーの印象度が大きすぎる。Ninjaは良くも悪くも国産の標準。BMWは独特の手法だ。操作方法自体にはすぐに慣れたのだが、キャンセルが右側にあるのが良くない。例えば交差点を曲がった後、加速したいのにウインカーキャンセルに気を取られるとうまく加速できないのだ。しかも俺は手が小さいからなおさらである。慣れの問題もあるが、どうしたって右手の動きをスポイルしてしまうレイアウトは疑問だ。また、ハザードとグリップヒーターのスイッチの動きが少し渋いのも問題である。
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その他快適装備
K100RSの圧勝。というより、快適装備なんてNinjaには無い。俺のK100RSにはオプションのグリップヒーターがついている。これは大きい。あとはBMWほぼ全車共通の電源ソケットがある。これはあまり使い道が思い付かないが、無いよりは良いかもしれない。
7.燃費
ということで、言うまでもなくK100RSの圧勝。
とまあ、色々と見てみたわけであるが、どっちがいいのかはやっぱりこれだけでは判断できないのだ。楽にツーリングしたければK100RS、街乗りでもなんでも、というのならNinjaなのかもしれない。それと、カスタムする楽しみは圧倒的にNinjaの勝ち。しかし、目立ち度はある意味ではK100RSの勝ち。世間にはBMWがバイクを作っていることさえ知らない人が結構居るのだから。
バイクは感覚的な乗り物だし、乗ってナンボのものだから、バイクが何であろうとその瞬間に気分良く乗れればそれでいいのだ。優劣をつけようとする事自体意味が無いのだ、と書き終わってから気付いた(爆)
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