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1999/1/16 人間、時には辛抱しないことも必要だ

何も決まらないままに時間は過ぎる。時間どころか年も変わって1999年になる。JR130のことをISUZU MLに出してみても、やはり反応は芳しいものではない。オーナーの方にも何の反応もないようだ。これがJR120だったら、買うかどうかは別として少しはアクションが起こるはずなのに、何でJR130だとみんなそっぽ向くんだ?

それはそれ、これはこれ、というわけで、俺は自分のJR120の修理の段取りやら、修理中の足車の手配だのに奔走していた。足車のために、今借りている駐車場(がんばれば3台置けるのに、今は1台しか置いていない)の隣の空間を貸してくれ、と大家に頼んでみると、4千円で良い、と言う。このへんの相場が1万円だから、安い。しかし、せっかく駐車場は確保したのに、タダで貰えるはずの足車が来ない。足車の持ち主からのメールが返ってこないのだ。何てこったい、こっちは車庫証明の書類まで準備しているっていうのに。しかし来ないものはどうしようもない。ここで一つの案を思いつく。

とりあえずJR130を買ってしまって足車にすれば全部解決!

我ながら名案ではないか。問題はJR130の車検が2月で終わってしまうという点。まあどうせその頃にはJR120の修理も終わるだろう。それに車検切れの後の置き場も何とかなる。おお、これはいいぞ、なんて考えていると、ものすごいタイミングでJR130のオーナーからメールが来る。

暫く旅行に行くから、車検切れまで貸しますよ。

何と。以心伝心とはこのことか。早速取りに行く日取りを決める。そして1999年1月16日、平塚駅近くで待ち合わせということで話がまとまる。

しかしだなあ、ちょっと待て。いくら何でも話が上手くいきすぎのような気がするぞ。大体だなあ、良く考えてみれば、置き場があったところでその後どうするっていうんだ? 俺が乗る? そんな馬鹿な。じゃあ誰が乗る? 居ねえよ、そんな奴。嗚呼、JR130というのは何という扱いにくい車なのだ。誰か乗る奴を探すったって、どうやって探すんだよ。せいぜい俺のWebにデカデカと載せておく位しか手が無いじゃないか。わざわざ雑誌に載せるなんて面倒だし。うーん困った。でも借りるって言っちまったしなあ。困った困った。そして困っている間に1月16日は来る。

丁度平塚駅に着いたところで携帯に電話が入る。駅を出てちょっと行ったところにあるNTTの前に居るようだ。早速そちらに向かう....が、見つからない。気ばかり焦って全然見つからない。暫くするともう一度電話が入る。どうも俺は全然関係ない所ばかりをウロウロしていたようだ。早速今度こそここだ、という場所に向かう。おお、居た居た。うーん、やっぱり錆が見えないほど眩しい車だ。ここで車を受け取ってしまうとオーナーが帰宅するのが大変なので、一度オーナー宅のある厚木まで戻る。良く考えてみると初めて乗るJR130の助手席。助手席で冷静に聞いていると結構五月蝿いんだなこの車は。前回の試乗がいかに興奮状態だったかが良く判る。

オーナーの駐車場に到着。車検切れは2月6日の土曜日だとのこと。乗れるのは約3週間か。車の中に関係ないモノが落ちていないか、車検証はあるか、その他色々チェックする。問題は無いようだ。オーナーから鍵を受け取る。乗り物を個人売買する時の最も嫌いな時間だ。オーナーの心を思うと、どうにも颯爽と走り出せない。どうしますかねえ、この車、なんていう話を暫くした後、ようやく俺は車に乗り込む。エンジンをかける...が、かからない。何じゃこりゃ、ガッ・ガッ・ガッ、って何処がひっかかってるんだ一体。するとオーナーは「よくあるんですよ。3回ガッってのが。もう1回やってみて。」と言うではないか。その通りに、もう一度スターターを回す。ブォン! あっさり目覚める。うーん、実はやっぱりボロいのかこの車は。折角さりげなく去ろうと思ったのに、また話をしてしまう。そして、ようやく本当に去ることとする。オーナーに手を振りながら、ゆっくりと駐車場を出る。その時のオーナーの表情は...見れない。見たくない。

さて、この日は丁度ISUZU MLのカート大会が平塚で行われているはずなので、帰りついでにそこに寄ってみることにする。R129を堤町で曲がって相模川の河原沿いに出ると...おお、あったぞ。さて駐車場は? 奥か。空いているところは、と。お、あそこが空いてる。あ、MLの連中じゃないか。ふっふっふっ、やっぱり驚いてるな。当たり前だ、それが狙いなんだから驚いてもらわないと困る。やあ、どうも〜。あ、これですか? 借りたんですよ、車検切れまで。だからあと3週間の命ね。いやいや、買ったんじゃなくて借りたの! いつまでも強がる俺。いや〜いいでしょ〜コレ。でもここ錆びてるよ。あとここも。あとこっちも。あそこもあっちも錆びてる。でもなんかいいでしょ〜コレ。ホラ、ボンネットもちゃんと開きますよ。ホラホラ、栄光のG200ツインカム。ホラホラホラ、エアインテークのところに「ISUZU JR130」って書いてある。これがいいんだよね〜。また同じことばかり何回も言っている。MLの連中はこの時点で俺がカート大会のためじゃなくて、見せびらすために来ていたことにすぐ気付いたに違いない。

その後腹が減ったのでファミレスへ。話はJR130の話題になる。誰か買う人いない? と言うと、ピアッツァを欲しがっている人を知っているという話が出る。でも、ピアッツァがただ好きなだけじゃあ駄目で、JR130が好きじゃないとあの車は乗れないですけど、いいですか? なんて話になってしまって、結局話は進まない。何故そうなのか、という説明をしているうちに、ますます誰も乗れない車のような気がしてくる。そして、あることに気付いてしまう。

もしかして、俺以外にあの車に乗れる奴って居ないんじゃない?

いや、別にそんなことは無いんだけど、話をしているうちに、あの車を他人の手に渡したくなくなっている自分に気付く。結局、俺が乗るのが一番あの車にとって良い道のような気がしてくる。自分自身の知識や整備力や資金力の無さはそっちのけで、話だけが頭の中で勝手に飛躍する。もう駄目だ、止められない。車に戻って、またあっちこっち見てみたり、車検証を見たりする。ここで、実は車検は2月5日の金曜日までだということに気付く。何だよ〜、土曜日までだと思ってたのに。MLの連中は再びカートを始める。俺はそれを見ている。見ているだけだ。頭は完全にJR130のことで支配されている。

皆と別れて家に向かう。エンジンが壊れたJR120を奥へ押しやってJR130を停める。あーあ、2台並んじゃったよ。黒と白。Black and White。じゃない。イタリア語でNero e Bianco。イタリア語なんてSerie Aをセリエアーと読むことくらいしか知らないくせに、何故かこれだけは知っている。なかなか良い眺めだ。車から離れてしばし眺める。一服しながらウーンと唸る。一服を終えた段階で、既にこの車の処遇は90%決まっていた。

部屋に戻り、車検切れ後の対応についての確認のため、オーナーに電話する。いやー、車検実は2月6日で切れちゃうんですよね、なんて話をしていると、オーナーが不意にこんなことを言い出す。

あなたになら、3万円で売ってもいいですよ。

思わず吹き出す。小池さんよろしくラーメンなんか食ってたらテーブルは大変なことになっていたに違いない。いくら俺が貧乏だからって、3万円くらいはある。否、別に5万円だって払えたのに躊躇していた俺に、何故かこの言葉がモノスゴイ効力を発揮する。少なくとも、さっき90%だった俺の心の残りの10%を埋めるには十分だった。ええい、もういい、グダグダしていてもしょうがねえ、買え! 買ってしまえ! そして俺は、オーナーに購入の意志を伝えてしまった。欲しいのを我慢してばかりでは身体に悪い。たまにはこういうのも良かろう。電話を終え、何となくJR130の元に戻る。何故かついさっき見た車とはちょっと違う車に見えた。

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