1999/2/5 いつか起こしに来る。ゆっくり休んでくれ。
めでたく俺のものになったJR130は、やっぱりボロかった。早速通勤に使い始めると、色々なことが見えてくる。エンジンはちょっとひっかかったような音を出している。アイドリングはやっぱりイマイチで、停車後に恐ろしく回転が下がったりする。アクセルワイヤーの引き側が緩んでいたようだ。これを直すと多少マシになる。ATは誰がどう見ても滑っている。ライトを点けても、アイリッドは開いたり開かなかったりする。叩くと動くんだけど。そして一番問題なのは、こんな不具合がどうでも良く思えるくらい、ステアリングがボロいということ。真っ直ぐ走らないなんてかわいいもんだ。ハンドル切っても曲がらないんだから。あーあ、やっぱり俺の試乗なんてアテにならんわ。これからは試乗するときは1週間借りてチェックすることにしよう。自分のJR120より優れているのは、落ち着いた乗り心地と全然軋まないボディ。ま、マシな部分があるだけ救いだな。
確かにこの車には不具合が沢山あった。でも、気にしないことにした。気にしないで済む問題ではないことは判っている。そんなことより、もっと重要なことがあるから。車検切れまでの残りの3週間、コイツと一緒に走り回る。それが一番重要なんだ。あと3週間経ったら、コイツは走りたくても走れないんだよ。だから、とにかく走る。何があっても気にしない。動けばいい。
初めて使うデジパネ。フリーセットアラームの操作に熱中していて、横浜新道の川上インターで降りそこねて200円払う羽目になったりする。
天井が剥がれていて、頭が触れて気になってしょうがないので、会社に行くのに帽子をかぶって運転したりする。
ボロボロのセンターコンソールに挟まるように付いている三菱純正のカーステレオは、AMラジオが入らない。
それでもいい。「シニア・ドリーム」を聞きながらこの車を運転すること。それだけで、下らない不具合なんか全てどうでもよくさせてくれる。だから、何があっても関係ない。とにかく走る。
車検切れ前の最後の週末。空はこの上ない晴れ。迷うことなく、まだ寒いであろう伊豆へ向かう。ステアリングが機能しないことを知った上で伊豆スカイラインを走る。どんな道であっても、コイツのステアリングの動作はもう判っているから問題無い。ちょっと走っては写真を撮る。最悪の場合、二度とこの車はここには来れないことを知っているから、やけに慎重に撮る。西伊豆の海岸沿いを走り、誰もいない西伊豆スカイラインを撮影ポイントを探して何往復もする。コイツが動いていた証拠を残したい。ただそれだけだ。
そして車検切れの2月5日は来る。JR130にばかりかまっていたのが悪かったのか、カッコつけすぎた文章を書いたのが悪かったのか、結局、JR130に乗っていた3週間の間、修理に出すはずのJR120は駐車場の奥でじっとしたままだった。ATKにリビルドに出したかっぱぎエンジンは工場に戻ってこなかったのだ。何てこったい、一体何時になったら直るんだよお前は。大体だなあ、何でPIAZZAを2台持っていて2台ともまともじゃないんだよ。さらに悪いことに、前夜降った雪がまだ残っていた。しかし、車検は今日までしかないから、意地でもコイツを神奈川県西部に確保した車置き場(通称:秘密基地)まで持っていかなくちゃいけない。今日は金曜日なので、早起きして出社前に持っていくしか手が無い。クソッ、何でこういう時に限って忙しいんだあのクソ会社め、暇だったら休むのに。道路はまだ雪が溶けていないんじゃないかと心配したが、そんな心配は無用だった。もう完全に溶けている。いつもは金をケチって途中で降りる西湘バイパスを珍しく国府津まで走り、通勤車両の多い一般道を抜けて秘密基地まで難なく到着。本当に難なく着いてしまった。それをこんなにつまらなく思うことが今後あるのだろうか。もう少し乗りたかったのに。
冬の早朝、神奈川県西部の山中はまだ寒い。震える手にマイナスドライバーを握り、ナンバープレートの封印をこじやぶる。以前、引っ越しで川崎ナンバーから湘南ナンバーに換えた時の封印破りはこの上ない快感だったが、今回のは快感でも何でもない。クソッ、誰だ車検なんて言う馬鹿な制度を考えたのは。何故国は貧乏人にこうまで冷たいのだ。フロントのナンバープレートを取ろうとすると、ナットが錆びていて取り付け部からポロッと落ちたりして不快感に輪をかける。
複雑な思いでナンバープレートだけを鞄に放り込む。ボンネットを開けて、バッテリーのターミナルを外す。これで、ここまで何事もなく走ってきたこの車は、もうどこも走れない。すぐそこに見える道路にすら出ることは出来ない。そこに置いてある車の姿は、ついさっきまでと何も変わらない。ナンバープレートが無い以外は。なのに、乗れない。無性に腹が立つ。でも、俺に出来ることは、ちゃんと直してもう一度車検を取る。それだけだ。もう時間だ。JR130に別れを告げ、気を取り直して電車で会社に向かった。
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