Michinoku hitori tabi Part 5 竜飛岬はかくも遠し


Route Map 980630 本日(1998/6/30)の走行ルート
男鹿水族館近くの海岸 → 入道崎 [県道59,55号]
入道崎 → 寒風山 [県道55号R101,県道45号]
寒風山 → 黄金崎不老不死温泉 [R101]
黄金崎不老不死温泉 → 十三湖 [R101,広域農道]
十三湖 → 竜飛岬 [R339]
竜飛岬 → 蟹田町の道路脇 [R280]

(某地図より無断借用)



ふと気付いたら、テントの外から爺さん婆さんの声が聞こえる。散歩しているのか、仕事しているのか、ラジオ体操でもしているのかは判らないが、やけに賑やかなのは間違いない。うるせえなあ、もっと寝かせろ、と思ったが、テントからうっすらと光が透けて見えることからすると、少なくとも夜は明けているようだ。そのへんに置いてあるはずの目覚まし時計を手探りで見つける。もう7時か。折角目覚ましをセットしたのに、そんな必要は全く無かったようだ。外から聞こえる音は、例の声以外は静かな波の音だけ。どうやら雨は上がっているようだ。

テントの扉を開ける。朝の光が心地良い。こんな気持ち良い目覚めをするなんて、何年ぶりだろう。普段だったらあと1時間以上寝ているし、しかも寝覚めは悪い。でも今日は何故かすっきりしている。おもむろに「竜泉洞の水」と煙草を取り出し、外に出て歩きながら一服しつつ水を飲む。どうやらバイクは無事なようだ。通学すると思われる小学生らしき二人組が変な目で俺とバイクを見やりながら過ぎていく。こんな所から何処にどうやって通っているのだろうか。海の方を見ると、さっきの爺さん達は漁業に従事しているようで、船のそばで網を広げて何かやっている。海は限り無く穏やかで、端の方に何隻かの漁船が並んでいるくらいだ。そのまま近くのトイレまで歩く。蛇口から出る冷たい水で顔を洗い、その水を空になった「竜泉洞の水」のボトルに入れる。ついでに歯を磨いて、テントに戻る。

K100RS at beachだだっ広い海岸にポツンと居座るK100RS

早速テントを片付ける。これが面倒なんだよなあ。これだけ誰か代わりにやってくれりゃあいいのに。ブツブツ言いながらテントの中を片付けているうちに、パニアケースの中にある珈琲一式が目に入った。それを見た瞬間、無意識のうちに準備を止めて折り畳み椅子とストーブ、そして肝心の珈琲セットを持ち出して何時の間にか堤防の上に登っていた。早速湯を沸かし、珈琲の準備を進めるが、ここで何とフィルターを忘れたという情けない事実が判明。嗚呼、俺は何て馬鹿な奴なんだ、あれが無ければ珈琲なんか出来るわけが無いじゃないか。しかしもう湯は沸いている。仕方ないのでそばにあったトイレットペーパーを無理矢理フィルター代わりに仕立て上げ、キャンプ用の珈琲メーカーにセットする。カップの上にそれを置き、恐る恐る湯を注ぐが、やはりトイレットペーパーは目が細かすぎたようで、全然珈琲が落ちていかない。クソっ、切れるのを恐れてトイレットペーパーを重ねすぎた。それでも何回か繰り返しているうちに何とか珈琲は出来上がった。椅子に座り、朝の海を眺めながらのんびり珈琲を飲むというのも中々良いものだ。これで珈琲がちゃんと出来ていたら言うことは無かったのだが、残念ながらインチキアメリカンをさらに薄めたくらいに薄い。そんな薄い珈琲を飲みながら、今日の行程を考える。まずは男鹿半島を一周し、そのまま寒風山を登る。その後八郎潟を抜け、JR五能線と同じコースを辿って青森方面に入り、途中で適当に温泉に入ったりしつつ、津軽半島内の何処かで寝る、といった寸法だ。上手く行けば、竜飛岬あたりのキャンプ場までは行けるかもしれない。そんなことをしている間にも、そばの道を軽トラに乗ったオジサンが怪訝そうに俺の方を見ながら通り過ぎていく。おっと、もう8時近いじゃないか。こんなことをしている場合じゃあないぞ。

Coffee働いている爺さん婆さんはこの姿を見てどう思うのだろうか

雨で濡れたテントを片付け、外したパニアケースを再びK100RSに取り付け、さらにマットとテント、折り畳み椅子をリヤシートに括り付ける。準備は完了だ。エンジンをかける。特に問題はなさそうだ。エンジンよりも、ダラダラしていたことと、昨日の疲れが重なったせいか、多少体が重く感じられるが、そんなことは言ってられない。暖機しながらの一服を終え、さあ行くか、と思いつつ何となくオイルゲージを見ると、こともあろうにもう半分近くまで減っているではないか。何だこりゃ、まだ1000km位しか走っていないのに半分っていうのはどういうつもりだBMWめ。それに今回は全然ストップ&ゴーが無かったのに半分だ。クソっ、やっぱりオイル代で稼ぐ皮算用だな。なんて文句ばっかり言っていてもしょうがないので、オイル交換の時に残ったオイルを少しだけ注ぎ足す。やっぱりオイルを持ってきておいて良かった。エンジンをかけ直す。今度こそ出発だ。

そのまま先に進んでも良かったのだが、あの絶景をちゃんと見たいぞ、というわけで昨日走った道を少しだけ戻ってみる。水族館を過ぎて、急坂を登るあたりで昨日見かけたVTZ250とすれ違う。坂を登りきると、右側に絶景を見ながら道は進む。一体どうやってこんな所に道を作れたのか不思議で仕方が無い。右側ばかりを見ながらダラダラ走っているうちに、昨日入りかけた桜島キャンプ場前のだだっ広いバス停に到着。昨日は何とも思わなかったが、何で桜島という名前なんだろうか。そもそも島なんか何処にも無いじゃないか。ここから先はUターンが難しくなりそうなので、ここで戻ることにする。またもや水族館の前を通り、今日寝ていた場所を通りすぎて暫く走り、男鹿半島最北端の入道崎に出る。

さっきまで走っていた狭っちい道を考えると、ここの駐車場の広さはちょっと異質なものがある。一応観光名所なのだろうか。しかしまだ朝も早い上に、平日なので観光バスなんて一台もいない。土産物屋も開いているのかどうなのかはっきりしない。ふと見ると、先程すれ違ったVTZ250が隅っこに停まっている。俺は駐車場がガラガラなのをいいことに、ど真ん中に堂々と、且つポツンと停める。岬の方にはどうにも場にそぐわない大きな石碑が立っている。何かと思ったら、ここは丁度北緯40度らしい。そもそも自分が住んでいる場所の緯度が何度なのか知らない上に、一度違うと何キロくらい離れているのか考えたことも無いのであまり実感が湧かない。ここには芝生が生えていて、広場のようになっているので、何の気なしにそのまま海の方に歩いていくと突然断崖絶壁になってしまったりする。なかなか良い景色だ。どことなく城ケ島に似ている。奥の方に行けば何か別のものがあるのかもしれないが、そんなに面白くもなさそうなのでさっさとバイクの元に戻り、Wが行けと言っていた寒風山に向かう。

青看板に従って寒風山に向かう。寒風山は、ツーリングマップルには男鹿半島のシンボルなんて書いてあるが、高さからすると山というよりちょっとした丘程度のものである。さすがに湘南平よりは高いみたいだけど。頂点までの道は適度なアップダウンでなかなか気分が良い。道路自体が元々高いところを走っているので、家も木も何も無い草原を暫く走ると、あっと言う間に頂上に着いてしまう。ここも駐車場ばかりが巨大で、殆ど誰もいない。でも、ここから見える景色は格段に良い。日本海は勿論、男鹿の市街地、そして俺が昨日寝場所を探してうろついていた海岸も全部見える。問題は、風が猛烈に強くてかなり寒いという点にある。寒風山とはよく言ったもんだ、これだけ周りに何も無ければ寒いに決まっている。寒さに弱い俺は、例によって景色を堪能したところでさっさと下山することにして地図を見る。八郎潟まで行くには、まずは昨日通ったR101に出れば良いようだ。やけに混んでいる道路を道なりに暫く走っているうちに国道に出るT字路に出る。これを左折したところに丁度コンビニがあったので、腹ごしらえすることにして、おにぎりとサンドイッチを買って適当にむさぼる。そしてそのままその場に座り込んで、スポーツ新聞を読み漁る。オヤジ丸出しもいいところだが、BMWはオヤジバイクと馬鹿にされるんだからオヤジ的行為は似合うんだ、なんて適当な理由をつけて、風でバタバタする新聞を読む。そもそも、キャンプには新聞は重要な道具なのだ。馬鹿にしてはならん。

Kanpuu Zanここから落ちたら怖いだろうなあ

ここから八郎潟に行くには、すぐそこの交差点を左折すれば良いようだ。ちょっと走るとすぐにその交差点を現れた。ここを曲がって暫く走ると、本当に真っ直ぐな道になる。ずーーーーーっと先まで延々真っ直ぐだ。でも、ただそれだけなんだよなあ。周りは当たり前だけど畑ばっかりで面白味もクソも無い。観光地じゃないから仕方ないよな。途中で八郎潟記念館だか何だかの看板を発見して、ちょっとだけ見てみたい気もあったが、何となく停まるタイミングを失ってしまって延々走り続ける。途中でまたもや北緯40度を通り過ぎたり、「自動車専用道路:無料開放中」なんていう変な看板に笑ったりしているうちにR101に合流し、そのまま能代市に入っていた。八郎潟のど真ん中に比べたらちょっとした町になっているくらいで特に何も無い。何故この町にあんなにバスケットボールが強い高校があるんだか理解できない。あっというまに市街地を通り抜け、遂にR101のハイライト区間に入る。

道は海岸線沿いに、平行して走っているJR五能線と何度か交差しつつ進んでいく。そして反対側には白神山地がすぐそばに来ていて、山が海になだれ込む隙間を走っているような気分だ。これは何とも気分の良い道だ。いつまでも同じような景色の中をK100RSは快調に進んでいく。信号もない上に、邪魔な車も全然居ないのでガンガン進んでいく。かなり長い距離を走っていたことにメーターを見て気付く。そこにたまたま「道の駅はちもり」が現れたので、ここで一休みすることにしてバイクを停める。ブラブラ歩いていると、奥の方に「お殿水」なんていう湧き水が現れる。殿様が飲んでどうたらこうたらと看板に書いてあるが、そんなことよりK100RSの熱にやられた身体を冷やすほうが先決だ。早速飲んでみる。美味い。

Otono mizu何故日本人はこういう無粋なドレスアップが好きなんだろうか

男鹿半島のトイレで入れた水なんかさっさと捨ててしまって、お殿水を「竜泉洞の水」のペットボトルに入れ替える。こっちの方がどう見たって美味い。駐車場に戻り、道の駅に立っている地図を見る。おお、もうすぐそこは青森県じゃないか。そうか、遂に本州の一番端っこまで来たか。さすがに感慨深いものがあるが、秋田美人を探すという目的は結局果たされないまま秋田県を後にするというのも寂しいものがある。探すどころか、若い女なんか殆ど見なかったぞ、ホントに居るのか? 秋田美人なんてのが。ああだこうだと文句を言ってはみたものの、極力市街地を避けて走っていたんだから見るわけが無い。さて、出発するか。

そして遂に青森県に入る。何度も見た「秋田花まるっ」の看板ともお別れか。道は相変わらず素晴らしい。調子に乗ってどんどん進んでいるうちに、実は何の目的も気付かないままに走っていたことに気付く。まあ目的地もなく走るのも悪くはないけど、昼飯の目処くらいは立てておきたい。丁度目の前にイカが吊るしてある空き地が現れたので、そこにK100RSを停めて地図で検討する。どうも昼飯を食えるような町はしばらく無さそうだし、大した名物も無さそうだ。しかし、その代わり「黄金崎不老不死温泉」なる温泉がある。こりゃ良さそうだ。確かここはトゥナイトだか何だかで紹介していたような記憶があるぞ。その隣に「みちのく温泉」というのもあるけど、インパクトが違いすぎる。やっぱり名前ってのは重要だ。GPZ900Rって言うより忍者って言ったほうがインパクトがあるようなもんだ。BMWもKだのRだのFだのっていう判りにくいのだけじゃなくて、もっと変な名前を付けてみれば多少は日本の若い連中にもアピールできるかもしれんぞ、なんて下らないことを考える。そもそもそういう車みたいなペットネームが嫌いで俺はBMWを買ったのだ。馬鹿なことは考えないで先に進むことにしよう。

Otono mizu烏賊とK100RSは何となく形が似ているような気がするのは気のせいだろうか

ここから不老不死温泉までは15〜20kmといったところか。どうにも土地勘が無いので自分が今何処にいるかも判らないんだからしょうがない。一応オドメーターを気にしながら進むが、暫く走っても何の看板も現れないので不安になってくる。艫作という駅の近くみたいだけど、駅が見えなきゃどうしようもないので余計に不安だ。今までより多少ダラダラ走っているうちに、ようやく不老不死温泉の看板を発見。やっと見つけたぞ。看板に従って左折し、五能線の踏み切りを跨いで坂を下る。すると、ホテルのような建物があったので何となくそこに入ってしまったが、不老不死温泉は海沿いにあるはずなのでこれではないはずだ。海の方に道が続く道に戻り、坂を少し下りるとそこにも建物があり、右側に駐車場がある。早速K100RSを駐車場に停める。他に車は2台だけ停まっている。平日だから少ないのか、いつも少ないのかは定かではない。前方には岩場と海。その岩場にブロック塀が立っていて、これに囲まれた部分が温泉のようだ。左側には不老不死温泉と書いてあるけど、あんまりにも怪しい。

Furou fushi onsen温泉と判っていなかったら近づかないぞ、こんな所。

Furou fushi onsen あんまりな怪しさに、ペンキまで舌が回らず「露露天風呂」になってしまったようだ

Furou fushi onsen中は一応風呂の形になっている

試しにそのブロック塀に近づいてみる。一応男湯と女湯の区別はあるらしい。このブロック塀は明らかに新しいもので、以前はこんなの無かったんだろうなあと思うとちょっと残念だ。中を覗いてみると、石で出来た湯船があるだけ。それ以外は本当に何も無い。そして前方にはだだっ広い日本海が広がる。うわー、こりゃ気持ち良さそうだ。湯は鉄が錆びたような色だ。思わずそのまま入ってしまいたくなってしまったけど、俺はまだ金を払っていない。おい、この温泉は一体何処で入湯料を払えば良いんだ? このまま勝手に入っても誰も見ていないじゃないか。本当に入ってしまおうかと思ったが、坂の途中にある建物に風呂のようなものが見えるので、こちらが受付かもしれないので一応建物に入る。誰も居ないので、すいませーん、と言ってみると奥からオバサンが出てきた。温泉に入りたいんですが、と言ってみると、建物の中の内湯、そして外の露天の両方合わせて400円だそうだ。迷わず金を払う。内湯には特に興味は無かったが、せっかくなので入る。そもそも身体を洗えるのはこちらだけだ。錆みたいなお湯で体を洗っても洗った気にならないし、あそこで石鹸を出すわけにもいくまい。扉を開けた途端、オジイサンが床で大の字になっているのが目に入る。一体何が起こったんだ? と一瞬びっくりするが、その横で黙々と身体を洗うもう一人のオジイサンが居るので、単純にのぼせて寝ているだけであろう。何とも呑気なところだ。俺が身体を洗いはじめると、そのオジイサンは突然起き上がって体操を始めた。何なんだ一体。身体を洗い終えて、ガラス越しに海が見える湯船に浸かる。こちらも湯の色は錆色だ。これはこれで悪くないが、やはり外の露天に比べると面白味に欠ける。さっさと外に出ることにして風呂場から出る。

どうせ誰も居ないし、そのままタオルだけ巻いて露天まで行ってしまおうか、とも思ったが、それも何だかみっともないので一応着替えるだけ着替えて、タオル類だけ持って露天に向かう。相変わらず誰もいない。適当に服を置いてさっさと浸かる。いや〜、こりゃたまらん。最高だわこりゃ。天気も良いし、日本海もキレイだし、湯の温度も丁度いいし、人一倍文句が多い俺にも文句が付けようが無い。この温泉が何故不老不死なのか、というさっきまで頭に引っ掛かっていた疑問がどうでもよくなってしまう。いやいやこりゃタマラン。夕暮れ時だったらもっともっともっと最高だったんだろうなあ。あんまりにも気分が良いので、湯船から出たり入ったりしながらひたすらダラダラする。さーて、これからどうしようかなあ、なんて考えながら、俺にしては珍しく長時間温泉に居座る。いつもはさっさと出ちまうのに。

そろそろのぼせ加減になってきたので、いい加減出ることにして、荷物が置いてある建物に戻る。適当に棚に突っ込んでおいた荷物は当然盗まれたりしないで残っている。やっぱり日本の田舎は世界一安全だ。悪い人なんかまず居ない。アチーアチー言いながら着替えて外に出て、自動販売機でポカリスエットを買い、腰に手を当てて一気に飲み干す。やはり風呂上がりに何かを飲むときはこのスタイルでなければならない。こうでなくちゃ美味くないのだ。瓶入り珈琲牛乳があればベストだったんだけど、無いものはしょうがない。さて、そろそろ腹が減ってきたので食い物のことを考える。ツーリングマップルを見ていると、鯵ケ沢のあたりまで行くとドライブイン汐風というのがあって、そこのイカ丼が美味いらしい。本当は今すぐにでも食いたいところだけど、地図を見る限りどうみてもそこまでの間には何も無さそうなので、途中の千畳敷で一服しつつ、そのドライブイン汐風まで行くことにする。美味そうな店が見つかったら、そこに入ってしまえば良いだけの話だ。

道は相変わらず気持ち良く進む。一体この深浦町という町はいつまで続くのだろうか、と思わせるほど、単調で、それでも気持ち良い道が続く。家から会社までがこんな道だったら、多分毎日単車で通うだろうなあ、と思う。それに、津軽半島の付け根に辿り着くまでは、絶対に道に迷うことはない。この安心感が気分の良さを増大させてくれる。何も考える必要がない、ということが心地よさの源なのかも知れない。ただひたすら目の前の道路を走る。途中の駅に五能線のディーゼル車が停まっている。お婆さんがのんびりのディーゼル車から降りて歩いていく。駅だというのにまわりに家なんか殆ど無い。ディーゼル車も動く気配もなく停まったまま。この呑気さがたまらない。

暫く走ると、左側にだだっ広い岩場が広がる。これが千畳敷みたいだ。これまただだっ広い上に、全然車の居ない駐車場に堂々とK100RSを停める。隅の方に居るトラックでは運ちゃんがふて寝している。いいなあ、クルマは、眠くなったらその場で寝られるもんな。芝生とかだったらすぐ寝ちまうんだけど、さすがに駐車場で寝る気にはなれない。岩場に入っていくと、何となく江ノ島的に海が途中まで入り込んだ岩場だったが、江ノ島みたいにゴミだらけではないので気分が良い。とにかくだだっ広くて端まで歩くのは大変なので、5メートル位の高い岩によじ登って一服。ここから全体を見渡して満足したことにして、そろそろ堪え難くなってきた空腹を満たすために出発する。

Senjyoujiki江ノ島の裏側みたいだけど、岩の色が全然違うんだよね

暫く走るうちにポツポツと民家が建ち始める。鯵ケ沢町の市街地が近づいてきたようだ。とうとうサイコーだったR101も終わりか。目的地に到着しつつあるというのにどこか残念だ。走っているうちに、ドライブイン汐風が左側に現れた。特に特徴的な建物だというわけでもないが、何故かバイクが何台か停まっているので何となく判る。男鹿半島で見たVTZ250も止まっている。何だかんだでみんなツーリングマップルを頼っているんじゃないか、つまらん連中だ、と馬鹿にしてみたものの、自分もそのつまらん連中の一人だというのが情けない。まあ情けないのは初の東北ツーリングなんだからしょうがないということにして店に入る。奥の方の海が見えるテーブルに座って、壁に貼ってあるメニューを眺める。色々あるが、とりあえずここはイカ丼にしておくに限る。しかし、優柔不断な俺にしてはアッサリ決まったというのに、いつまで経っても注文を聞きに来ない。さっき「いらっしゃいませ〜」なんて言ってたから、知らないはずは無いのに何故か聞きに来やしない。何なんだ一体、もう煙草一本吸い終わっちまったじゃないか。仕方がないのでカウンターのところに行って注文する。

しばらく待つとイカ丼がやって来た。丼の上にイカのミンチフライが乗っている。うむ、これは確かに美味い。美味いことは確かなんだと思うが、大概にしてツーリング中の飯は何を食っても美味いので全然説得力がない。腹が減っているのでガツガツ食っていると、丼の縁からポロポロと米がこぼれてしまって、みっともないことこの上ない。そして飯を食いながら今後の道を考える。既に時間は3時近いので、竜飛岬あたりまで行ければ良いほうだろう。竜飛岬までの道の選択肢は殆ど無いに等しい状態なのですぐに決まる。津軽半島の最も海に近い農道を抜けて、十三湖の道の駅から十三湖を眺め、途中で権現崎に寄ってからR339を通って竜飛岬に向かう、ということにする。問題は寝るところだけど、竜飛岬の隣の高野崎にキャンプ場があるので何とかなるだろう。イカ丼代700円を払って店を出て、農道に入る交差点に向かって走り出す。

鯵ケ沢市街を抜けて交差点を探す。今までは国道か県道ばかり通っていたので、交差点が見つかるかどうか不安だったが、それよりガソリンが無くなりつつある方がよっぽど不安だ。ここから津軽半島に入ると、少なくとも農道沿いにスタンドがある可能性は低い。折角農道に入る交差点を見つけたのに、ここでは曲がらず、スタンドを探してR101を直進する羽目になる。大体5kmくらい走ったところでスタンドを発見し、早速給油する。レシートを見ると、いつの間にやら鯵ケ沢から森田村に入っていたことが判る。給油を終えて出発しようとすると、ここでもスタンドを出るときに後輪を滑らせてしまう。危ない危ない、こんなところでコケたら、部品が手に入る可能性なんか無いに等しい。スタンドの向かいには「タップスSAVOY」という妙な名前のスーパーがあったので、ついでなのでこちらにも寄る。ここで珈琲のフィルターと、念のためカップラーメンを買っておく。津軽半島の先っぽの三厩にも食い物屋の一軒や二軒はあるだろうけど、もしも何もなくて晩飯抜きなんてことになってしまったら困る。別に俺はダイエットをするためにこんな所まで来ているんじゃない。

さっき見つけた交差点まで戻り、農道に入る。これがまたとんでもなく何もない道で、道の両側はただひたすら野原と林だけで全然面白くない。路面もあまり良くないのでさらに面白くない。たまに海水浴場入口なんていう看板が現れるが、地図で見る限りこの道から海まではかなり遠いので、そんなのは気にしないことにする。すると余計つまらなくなってくるが、ここはひたすら我慢である。ようやくつまらない道を抜け、県道と合流したところで道が判らなくなり、道端にバイクを停めて地図を眺める。こういう時に普通のタンクバッグが付かないタンクというのはとんでもなく不便だと感じる。俺が必死に地図を見ている横を、ヘルメットを被ってチャリンコに乗った中学生が通り過ぎる。ようやく道が判ってきたので、Uターンして頭の中の地図に沿って進む。R339に合流し、そのまま北上する。十三湖の東側を走るこの道は徐々に高度を上げ、さっきのつまらない道とはうって変わって面白い道になるが、前方を走るトレーラーが邪魔くさくてしょうがない。追い越そうかどうか迷っているうちに「道の駅 十三湖高原」に着いてしまった。売店の横にある展望台に登ってみると、十三湖がほぼ全て見渡せてなかなか気分が良い。しかし、既に時計は4時を過ぎていて、あんまりダラダラしている時間は無い。展望台を降り、エンジンをかける。センタースタンドをかけわすれていたので、見事に白煙を吐いてしまってみっともない。カッコ悪いのでさっさと駐車場を出る。

13もっと天気が良ければなあ...

そのままR339を通って権現崎に向かう。敢えて見るほどのものでもないような気もするけど、まあ折角近くを通るので寄ってみようという貧乏根性が働いてしまうのでしょうがない。青看板に従ってR339を外れ、ホントにこれでいいのか? といいたくなるような狭い道を通っているうちに駐車場に着いてしまった。まあ確かに岬ではあるけど、今日の朝まで男鹿半島に居た俺としては面白くも何ともないぞ。つまらないのでさっさと戻ろうとしたら、何故か小泊のあたりで道に迷ってしまう。かなり焦ったが、とにかく狭い道をウロウロしているうちに気付いたらR339に戻っていた。どうもこのR339は竜泊ラインと言うようで、小泊の看板はどれを見ても竜泊ラインとしか書いていないので、そんな名前は知らない俺には判るはずが無い。別に道に名前を付けるのはどうでもいいんだけど、看板にまで使うのは勘弁して欲しいもんだ。R339は小泊の町を抜けると凄い勢いで登り始め、頂点まで来ると今度はどんどん下って、いつの間にか海岸線に出ていた。またもや深浦町あたりのR101に戻ったような道になり、左に海、右に山という道を走り続ける。暫く走ると、道は突然峠越えに入る。この峠を抜ければ竜飛岬、あと少しだ。

しかしこの道がとんでもなかった。久々の峠を楽しもうと思ったところに突然現れるダンプにいやーな予感を感じたのでスピードを落としてコーナーを曲がると、その先は工事中でダート状態だった。しょうがねえ、どうせすぐ終わるだろう、と決めつけて次のコーナーまで登ってみたら、その先も全部ダートじゃないか。オイ、聞いてねえぞこんなの、大体なあ、工事中の看板すら出さないで突然ダートにするとは何事か! 俺はダートが嫌いなのだ。そんなことするからK100RSも不機嫌になっちまったじゃねえか、とか言ってみるが、別にK100RSは不機嫌でも何でもなく、腹が立っているのは俺だけである。道路脇にはたまに警備のオッサンが立っていて旗振りをしているが、どうせ俺以外の通行車両なんか無いのでまるで無意味である。そんなことに腹を立てつつも何とかダートな坂を登り続けていると、何と前方でダンプが砂利をバラ撒いているではないか。登り坂な上に砂利ときたら、もうたまったものではない。本当はそんなに大した斜面でもない筈なのに、とんでもない坂を登っているような気がしてくる。

Tappaku line genjitsu現実にはこんなもんなのに、

Tappaku line imageこういうとんでもない坂を上っているような気がしてくる

そんなところに、前方から砂利を満載したダンプが大して広くもない道路を大胆に使って下ってくるもんだからたまらない。たまたまそこに居た旗振りのオッサンは左に寄れと言うが、砂利にハンドルを取られて寄るどころではない。こっちは必死に轍に合わせて登っているんだ、冗談じゃねえ、お前がよけろ、俺を殺す気かこの野郎! という俺の身体から発する怒りがよっぽど凄かったのか、堂々と走っていたダンプは右側によけてくれる。そして俺はその横を肩に目茶苦茶力を入れて、時速20km/hにも満たないスピードでトロトロと通過する。ダンプという難関を通過しても砂利と登りは終わらない。ここでコケようものなら二度と起こせないぞ、こんなとんでもない斜面で起こせるわけが無い、コケたら終わりだ、コケるな、コケたら死ぬぞ! ってな感じで、実はそんなに大した坂でもないのにマイナス思考は加速度を増す一方だ。それに反してアクセリングは一向に加速しないままであり、ついでに視線も次のコーナーどころか次の轍を見るばかりになってしまって、ひたすら目の前の路面を見ながら相変わらずゆっくりと、ブルンブルン揺れるハンドルを抑えて登り続ける。

そして、ようやく砂利が終わって舗装路が現れる。遂にあの砂利&急斜面攻撃をかわして舗装路に出たぜ! やったぜ父ちゃん、俺はやったよ! 砂利に勝ったんだよ! 生きて帰ってきたぜ! ってな感じで勝手に盛り上がる俺。要するに俺が下手糞なだけであって、実際には別にそこまで興奮する必要は全然無いような坂なんだろうけど、何よりもコケずに家に帰るということが貧乏人にとっては最も重要なことなんだからしょうがない。ホッとして大きく息を吐く。極度の緊張感を延々キープしていたので相当疲れたようだ。しかし道は舗装路になったとはいえ、相変わらずバイクを停めることを躊躇するような斜面が続いているので、停まれる場所を探して走り続ける。また工事箇所が現れるかもしれないのでゆっくり走っていると、やっぱり斜面なのに強引に切り開いたような駐車場が現れる。斜面だけど、それでも道端よりは多少はマシだし、もう疲れたのでバイクを停める。サイドスタンドを立てたところでドッと疲れが出る。

Tappaku line parking駄目だ、もう限界だ。

崩れるようにK100RSから降りる俺。もう駄目だ。走れん。こんなに疲れたのはこれまで何万キロとバイクに乗ってきて初めてだ。地べたに座って一服する。まだ足が震えている。地図を見てみると、坂を登り始めてからここまではせいぜい5kmくらいしか無かったようだが、感覚的には10kmを大きく上回っている。ただ、等高線的にはそれなりに凄い勢いで登っているようなので、並ではない傾斜度だったのは間違いないようだ。しかし問題はこの先だ、ここから先は竜飛岬までひたすら下るだけで、こっちも砂利だったらもう一巻の終わりだ。今登ってきた坂を下ることを考えただけで恐ろしい。下りのダートほど恐ろしいものはない。もう俺はここから一歩も動けないんじゃないかという気がしてくる。辺りは霧が出ていて、しかも車なんかこれっぽっちも通らない寂しい場所なので、いつまで経ってもマイナス思考は止まらない。思わずもう一本煙草を取り出す。

いつまでもこんな所に居てもしょうがない。途中で汲んだお殿水を飲んで、再びK100RSに跨がる。工事していないことを祈りつつ先に進む。暫くするとセンターラインが現れ、なかなか気分の良いワインディングになるが、どうしても工事中のイメージが頭から離れなくて走りを楽しむどころではない。しかし結局工事は始まらないまま、風力発電の風車が見えてきて竜飛岬が近いことを俺に告げる。眼下にいくつか建物が見えてくる。どうやらこちら側は工事はやっていなかったようだ。ようやく心が落ち着いてきた。そのまま看板に従って、途中の展望台に「津軽海峡冬景色」の石碑が立っているのを横目で見つつ竜飛岬の駐車場に入り、案内の看板の目の前にK100RSを停める。看板によると、展望台はすぐそこのようだ。看板に従って展望台に向かって歩く。階段を登って先に進むと、ついに視界が開けた。

Tappi misaki津軽海峡梅雨景色〜♪

折角竜飛岬まで来たというのに、残念ながら天気が悪くて北海道は良く見えない。ここまで来たんだから、フェリーに乗って北海道に渡ってしまおうか、なんてことも一瞬頭に浮かぶが、いくらなんでも時間がなさ過ぎるので諦める。しかしまあこの風の強さは一体何なんだろうか。竜泊ラインを越える前は風なんか全然吹いてなかったのになあ。何かの本に竜飛岬は滅多に風が止むことは無いなんて書いてあったけど、あながちウソじゃなさそうだ。こんだけ風が吹いてりゃあ風力発電も余裕だろう、なんてことを、飛ばされそうになる帽子を手で押さえながら考える。一服したいところだったが、100円ライターでは火をつけることすらままならないし、天気が悪くて景色もパッとしないので、さっき見た石碑のところに戻ってみることにする。今来た道を戻って石碑の前の歩道にK100RSを停め、今度こそ煙草に火をつける。よくよく見てみると、石碑には「津軽海峡冬景色」の1番から3番までの歌詞が書いてあるのだが、何故か2番が書いてある石がやけに大きい。何でだろうと思ったら、2番に竜飛岬という言葉が出てくるかららしい。読みながら何となく歌ってしまう。う〜ん、この寂しい場所にはやっぱり演歌が似合うねえ。

Tsugaru kaikyou fuyugesikiごらんあれが竜飛岬北の外れと〜♪

それにしても風が強い。どうも竜飛岬というのはあんまり長居するような場所ではないみたいだ。下に見える港には行っても意味が無さそうなので、三厩村あたりで晩飯でも食って、寝場所を探すことにしてさっさと退散することにする。そろそろ日も暮れかかっているし、昨日みたいに寝場所を探して彷徨うのはやはり避けたい。地図を見る限り、三厩で飯を食って、その先にある高野崎キャンプ場あたりで寝るのが良さそうだ。さっき下ってきたR339に戻って、青看板に従って三厩方面に進む。海沿いを走る道はかなり狭い上に路面状態が極めて悪い。たまに現れる民家は揃いも揃って木造で、しかも相当古いものばかりなので、ただでさえ寂しい雰囲気をさらに寂しくしてくれる。

暫くすると三厩の市街地に入る。ここで突然道が二股に分かれているので、一度R339から外れて民家のある方に入ってみる。道の両側には相変わらず古い木造の建物ばかりが並んでいる。スピードを極端に落とし、両側をキョロキョロと見ながら食堂を探してみるが、どれもこれもことごとく閉まっていて全然駄目だ。いくつかの店は開いているが、営業しているのはたばこ屋と雑貨屋くらいのもので、とても飯にはありつけそうもない。結局何も食えず、何も買えないままに商店街を通り過ぎてしまった。何てこったい、いくらなんでもここまで寂しい所だとは思わなかった。やはり北の果ては馬鹿にできない。寂しい。寂しすぎる。この時点で晩飯がカップラーメンになることは決まってしまった。危ねえ危ねえ、念のためスーパーで買っておいて助かった。さすがに何も食わないで寝るのは悲しすぎる。何も食い物までこのあたりの寂しさに合わせる必要はない。そんなことを考えながら、高野崎を目指して突進する。道路はいつの間にかR339からR280に化けている。殆ど通行車両の無い道をひたすら進んでいくと高野崎に到着。やけに広い駐車場にK100RSを停める。50台は軽く停まれる広さの駐車場には、他には車は一台も居ない。勿論人間も一人も居ない。一応キャンプ場の受付らしき建物はあるが、これは当たり前のように閉まっている。本来ならここで軽食も食えるようだが、閉まっていてはどうしようもない。とりあえず高野崎の先端に向かって歩いてみる。相変わらず北海道はぼんやりとしか見ることが出来ない。

Tsugaru kaikyou fuyugesiki誰もいないのに大洋ホエールズの宣伝をしてみる

しょうがねえ、そろそろ日も暮れそうだし、誰も居ないから勝手に寝ちまうか、と思ったが、どうにも風が強くて気が進まない。しかも風を遮ってくれるものが何もない。ちょっと悩む。地図を見てみると、ここから次のキャンプ場がある蟹田町までは20kmちょっと。その間に信号はまず無さそうだし、集落もあまり無さそう、そして道も極めて平坦なので、平均時速70kmは出るだろうから、30分もかからないで到着できるだろう。あと30分の間に日が暮れる可能性も無いわけではないが、気が進まない場所で寝るのも気分が悪い。もし日が暮れそうになったらそのへんの海岸で寝てしまえば良い。心は決まった。蟹田町のキャンプ場を目指すことにして、さっさとエンジンをかけて出発だ。

交通量の少ないR280を豪快に飛ばす。たまに現れる集落で速度を落とす程度で、あとはひたすらアクセルを開け続ける。あれこれ迷っているうちに、結局昨日男鹿半島で飛ばしていた時と同じ状態になってしまったことに気付く。一応食堂やスーパーの存在に気を配りながら走っているのだが、そんなものは全く現れてはくれない。そして空は急速に暗さを増してくる。食い物だけではなく、寝られる場所にも気を使わなければならない。勿論、走ること自体にも気を使わなければならない。かなりの精神力を要する展開になってしまった。そして何も見つからないまま蟹田町に入る。すると、右側にパーキングエリアが現れ、その脇の窪地に芝生になっている場所を発見する。トイレもあるし、これは悪くない。そう思いながらひとまず通過して、キャンプ場へ向かって突進する。

そこからほんの2kmほど走ると、左側にキャンプ場らしきものと港が現れる。看板に従って左折してキャンプ場に近寄ってみるが、事務所らしき建物の前で道は終わっている。さらに悪いことに地元のヤンキーがそばの空き地で車を囲んで騒いでいる。あまり気分の良い場所ではないが、一応キャンプサイトを確認したいのでバイクを停める。例によって建物は既に閉まっているようなので勝手に入ってみると、バイクを停めた場所からキャンプサイトまでがあまりにも遠い。これはパニアケース2個とテント関係の荷物を持ち運ばなければならない俺にとっては致命傷だ。しかもヤンキーが騒いでいるときたら、こんな所に敢えてテントを張る理由は全く無い。さっきのパーキングの方が全然マシだ。このキャンプ場には電灯が無いが、あのパーキングにはそれがある。既に日は殆ど暮れて白夜状態になっているので、これは重要な問題だ。決めた。今日の寝場所はあのパーキングだ。すぐさまエンジンをかけ直し、さっき曲がった交差点に戻る。右に曲がればパーキングだが、左側は蟹田の市街地のようだ。もしかすると食い物屋があるんじゃないか、という一縷の希望を持って左折する。すると、100mも走らないうちにサークルKが現れた。嗚呼、神よ。こんな所でコンビニに出会えるとは。数百キロぶりにみかけたコンビニだ。考えてみれば、八郎潟に入る手前で朝飯を食ったコンビニ以来、殆ど見かけていないような気がするぞ。何のためらいもなくバイクを停める。この先にはもしかすると食堂があるかもしれないが、そんなことはどうでも良い。ここでおにぎり2つと、酒のつまみのサラミを買う。弁当を買ってしまえばもっと簡単なんだけど、折角カップラーメンを買ってあるんだし、多少苦労したほうが飯は美味いのだ。ザックに食い物を突っ込んで、今来た道を戻ってパーキングに向かう。あっというまにパーキングに着く。

パーキングの隅に停めたK100RSからパニアケースとテント関係を外して、俺が勝手にテントサイトと決めつけた芝生に持っていく。窪地なので雨が降ったらマズイかもしれないけど、そばに側溝があるから大丈夫だろう。どんどん暗くなっていく空と競うように、大急ぎでテントを組み立てる。5分もしないで組み立てを終える。パニアケースをテントに突っ込んで、ストーブとかキャンドルランタンとかを引っ張り出した頃に、遂に真っ暗になる。危ねえ危ねえ、何とか間に合った。

Kanita parkingやべー、もう日が暮れるー

Kanita parking写真なんか撮ってる場合じゃないんだけど。

Kanita parkingふーっ、危ねえ、間に合った

あんまりにも慌ただしいキャンプの準備を終え、とりあえず折畳み椅子に座って一服する。よくよく考えてみれば、パーキングには電灯があるし、そばのR280も何故か街灯があるのでそんなに焦ることは無かったんだよなあ。落ち着くと急激に腹が減るので、湯を沸かしてカップラーメンの準備をする。今日のディナーは「煮玉子醤油ラーメン」とおにぎり2つである。湯が沸くまでの間にラジオを選局する。適当に回してみると野球に辿り着くが、やっているのは勿論巨人戦だけで、大洋対広島なんていうマイナーな試合は当然ながらどこの局もやっていない。CMの最中に「STBアタックナイターです」なんて言っているが、そのSTBってのは一体何処の局なんだ。途中経過目当てに巨人戦を聞いていると、どうも大洋は2-7とボロボロに負けているようだ。こんな気分の悪い試合なら中継なんか無いほうが良い。そんなことをしている間に湯が沸く。カップラーメンに湯を注いでボーッと待つ。その間にもR280をたまーにトラックや地元の車が通りすぎるが、暗いせいか、窪地に居るせいか、気付く人は殆ど居ないようだ。まあいくらなんでも警察に通報されて追い出されるようなことな無かろう。なんてことを考えているうちに3分経ったのでカップラーメンを食う。やっぱり美味い。残った醤油スープを飲みながらおにぎりを食う。その間に大洋は5-7と少しだけ追い上げを見せたようだが、どうせ追い上げきれずに負けるのは見え見えなので、ふてくされてバーボンをラッパ飲みする。サラミを食いながらガンガン飲んでいると、辺りに蚊が沢山集まってくる。いつの間にやらくるぶしの辺りを刺されてしまって非常に痒い。マグライトで照らしてみてみると、あっという間に刺された周辺が直径3cm程腫れている。さすがに田舎の蚊は手強い、と変なところで感心するが、蚊取り線香も虫除けスプレーも持っていないので、ひたすら蚊に攻撃され続けてしまうというのも面白くないものである。酒を飲みつつ地図を広げて翌日のコースを考える。とりあえず十和田湖、奥入瀬、酸ヶ湯温泉は外せないな、なんて考えているうちに、何と大洋が一気に8点取って大逆転したとの途中経過が入る。何だそりゃ、なんでそんな面白い試合を俺が見れない時に限ってやりやがるんだ大洋め、とリードすればリードしたで難癖をつけるのはいつものことである。中継はすぐに巨人戦に戻ってしまったのでまた地図を見ていると、青森の港のあたりには「青森ベイブリッジ」なんてのがあるのを発見する。一応本家ベイブリッジのある県に住む俺としては見ないわけにはいかない。そんなことを考えているうちに段々眠くなってきたので、夜露で濡れるとやばそうなものだけテントにしまい込み、俺もテントに入ってエアマットを膨らます。エアマットと寝袋を敷いて寝る準備が整えていると、ラジオはいつの間にやら野球中継は終わっていて単なるバラエティ番組になっている。寝袋に入りながら聞いていると、どうもSTBというのは札幌か北海道のラジオ局のようだ。たまに札幌出張なんかしたって勿論ラジオなんか聴かないから、北海道のラジオを聴くのは初めてだなあ、なんてことを考えているうちに眠さは深まる。たまに通り抜ける車の走行音を聞きながら、急速に眠りに落ちていた。

本日の走行距離 373km
本日の費用 ガソリン代 1099円
温泉代 400円
朝飯 200円(サンドイッチ)+120円(おにぎり)+115円(缶珈琲)
昼飯 700円(イカ丼)
晩飯 240円(おにぎり2個)+118円(カップラーメン)
缶珈琲代 240円
珈琲フィルター 115円
スポーツ新聞 130円
合計 3477円
累計 28795円


Part 6 晩飯がカップラーメンではないという幸福


Over 100,000km Project