茅ヶ崎の西端あたりを南北に走る産業道路。その周辺は、茅ヶ崎市というイメージからは想像しがたい寂れた雰囲気に溢れている。「つき家」は、その産業道路沿いにある。
この店は、前に何度か行ったことがある。茅ヶ崎家も、まつり家も、梵天家も無いような頃は、この辺りで家系(らしきものも含む)を食おうと思ったらここか辻吉家くらいしか選択肢がなかった。味もまあまあだった。
しかし、久しぶりに食った「つき家」のラーメン(550円)は、なんだか悲しいぐらいにダメになっていた。スープは獣臭い上に粉っぽく、チャーシューはニュータッチのカップラーメンのように固くてペラペラだし、ほうれん草は何時のものだか判らないくらいにしなびている。
パンチパーマにトレーナー姿の店主は、何となく具志堅用高に似ているのだが、見るからに痩せていて、引退寸前のボクサーのようだ。そのせいか、一つ一つの動きがやけにもっさりしているように思える。一緒に働いている女性店員は、妙にうつむき加減に仕事をしている。他に一組だけ客が居るのだが、ラーメンを食っているわけではなく、ビールを飲みながら喋っているだけ。
少なくとも、繁盛しているラーメン屋の雰囲気じゃない。なんだか釈然としない。どうしてこの店はこんなことになってしまったんだ。この店に何があったんだ。こんな状態じゃそのうち潰れてしまうんじゃないか。
ここのラーメンは、そういう余計なことを考えながらじゃないと食っていられないくらいにダメになってしまっている。ガッカリを通り越して、寂しい。
暫く姿を消していた店主が裏から現れた。手にはコンビニ弁当。ラーメンを作るための醤油を弁当にかけると、すぐさま裏に消えていった。また女性店員だけが残され、厨房を掃除している。
何とか食い終わった。最後に飲んだ水が一番うまかった。うまかったというより、落ち着いた。何故だか判らないが、平常心では食っていられなかった。
店を出た。店の周りの雰囲気とも相まって、何とも寂しい気分だった。
辻吉家にしても、つき家にしても、以前からあった店が、どんどんダメになっている。復活するのか、ひっそりと消えていってしまうのか。その境目に来ているような気がする。