電車に乗ると、大抵窓際に立つ。
理由は単純。窓際にいないとラジオがまともに聞けないからだ。
iPodなんてとても買えない俺は、通勤中は大抵ラジオを聞いている。FMではなく、AMのニッポン放送・教育ラジオ・AFNのどれか。CDウォークマンも持ってはいるけど、CDを入れ替えるのがメンドクサくなってしまうので、あんまり使わない。本当はこういうヒトにこそiPodが適していると思うのだけど、買えないものは仕方がない。
そして今朝も窓際に立ち、AFNを聞きながら仕事本を読んでいた。ふと斜め前あたりを見ると、そこに立っているネエチャンが、あまり通勤電車には似つかわしくないパンフレットを読んでいた。携帯電話や電気製品のカタログとは違って、厚めの紙を使ったまともなヤツだ。朝の通勤電車と言えば、新聞・マンガ・文庫本のどれかが王道で、何かのパンフレットを読んでいる人はあまりいない。
無粋だとは思いつつ覗き込んでみると、どうやら会社案内のようだ。ナントカソリューションだとか、ナントカシステムといった、我々の業界用語が並んでいる。そうかそうか、アンタはこのヤケクソな業界に飛び込もうというのか。止めておいた方がいいぞ、悪いことは言わないから。それにしてもこのパンフレット、ウチの会社と部署名がそっくりだな・・・と思いつつチラチラ見ていると、ある会社名が目に入った。そのパンフレットはまさにウチの会社のパンフレットであった。
そのことに気付いてからというもの、本人に話しかけて、そこに書いてあることは全部嘘だと洗いざらい話してしまいたくなる衝動を抑えるのに必死であった。ラジオは耳に入らず、仕事本は目に入らない。その人事制度も、教育制度も、ろくに機能してないぞ。そこに出ているオッサン、どうせ口だけ番長に違いない。その文章だってどうせゴーストライターだ。給料だってそんなに良くないぞ。ハードオフで500円で買ったラジオを、Shop99で買ったヘッドホンで聞く羽目になるぞ。今読んでいる仕事本も図書館で借りたやつだぞ。昼飯だって弁当持参だぞ。本社に居られる人間なんてほんの一握りだぞ。すぐに客先に飛ばされるぞ。そのくせして帰宅時間は0時過ぎだぞ。こんな業界やめとけやめとけ。勿論ウチの会社も。それでもいいなら止めやしないけど。
横浜駅で人がどっと乗り込んできて、そのネエチャンの姿は見えなくなった。その後、俺と同じく川崎駅で降りたのかどうかは定かではない。