Vespa LX125ie シートロックワイヤー修理

突如空回り

8月某日。
いつもの駐輪場にLXを停め、エンジンを止める。
そのままキーを抜き、シートロック(要するにメットイン)の鍵穴に挿す。
そしてキーを捻る。
これまで何度繰り返したかわからない。
身体に染み付いた動作である。

慣れきっているからこそ、すぐに問題に気付く。
捻った時の手応えが皆無なのだ。
スッカスカだ。

何ということだ。シートロックを解除できなくなってしまった。
ロック解除するためのどこかの機構が壊れたのだろう。

自棄糞でシートを押したり叩いたりしてみるが、勿論開かない。
そんなことで開いてしまうようではロックの意味がない。

いつまでも開かずのシートと戦っている余裕はない。
俺は会社に行かなければならないのだ。
行き場を失ったヘルメットを仕方なくコンビニフックに吊るしてその場を去る。

もうこんなの開かなくてもいいや、と開き直ろうとしたが、
困ったことにこれが開かないことにはガソリンを入れることができない。
残念ながら直さざるを得ない。

よくあること?

いつもはアプリ開発をしている電車内で、LXのシートロックについて調べる。
幸か不幸か、情報はそれなりにある。

十中八九、鍵とロックをつないでいるワイヤーが切れたのだろう。
これだからワイヤー式は嫌いだ。機械的なロッド式にしてほしい。
叩いて開けたという強者もいるが、そんなことをしたのはこの人だけだ。
これは一般的な解決策ではないのだろう。他に同じ開け方をした人は見当たらない。

LXは世界中で売っているので、英語の情報の方が豊富だ。
その多くは、針金だったり、クリアファイルのような薄いプラスチック板だったり、
そういったものを隙間に挟んでロックしているフックを引っ張って開けている。
これとか、これとか。
こちらがこのトラブル対処の王道だろう。

フックとの格闘

そして夜。
いつものように駐輪場に佇むLX。
ヘルメットは盗まれることなくコンビニフックにぶら下がっていた。
シートロックを開けようとするが、勿論開かない。
試しに叩いてみたが、とても開くとは思えなかった。
これは何らかの器具を使うしかないだろう。
とりあえず家に帰る。

英語の情報を参考にして、薄い・硬いを兼ね備えた手持ちの道具を探す。
とりあえずDIY用の「さしがね」をシートの隙間に押し込んでみた。
幅が広いのか、硬すぎるのか、ロック解除フックに到達している感じがしない。

続いては少し太めの針金を使ってみる。
先人の画像を見ながらそれっぽいカーブを描くように曲げた針金を差し込んでみるが、
やはりロック解除フックにたどり着けた感じがしない。

とにかくフック部分を通して引っ張れるようにしないとお話にならないのだが、
見えないものを想像でやっていることもあり、いつまで経っても肝心なところを通らない。

針金が柔らかすぎて途中で変な方向に曲がっているのだろうと決めつけ、
今度は長め(45cmぐらい)のタイラップを使うことにした。
こちらは変な方向に曲がることはないが、思い通りにも進んでくれない。
どっちもどっちである。

それでも何度も何度も繰り返しているうちに、
フックの向こう側を通過したタイラップの先端がシートの先に姿を表した。
とうとう引っ張れる状態になったのだ。

ここまで何と1時間。
なんという無駄な時間だ。
このぐらいでないとロックの意味がないと思うしかない。

そしてタイラップをじわじわ引っ張る。
確かな手応えとともにフックが動き、ガチャッ、とロックが解除された。
シートを持ち上げて、久々にメットインとのご対面だ。
いつもなら数秒で見られたこの光景に辿り着くだけでこんなに時間がかかるとは。

それなりの満足感はある。
しかし、切れなけりゃこんな目に合わずに済んだのに、という思いのほうが強い。

その場しのぎ

ここで安心してはならない。
なにかの拍子でシートを閉めてしまうと、また1時間のタイラップ差し込み耐久戦が待っている。
ロックを覆っているカバーを外し、フック部分を確認する。
案の定、ワイヤーが切れて動かなくなっていた。

どう直すかは二の次として、とりあえずこのロック機構をまるごと外してしまう。
勿論ロックはできないが、メットインの鍵がかかっていないと思う人は居ないだろう。
つまり、このロックが無くても盗難に遭う可能性は極めて低いだろう。
安物半帽ヘルメットとタオルぐらいしか入っていないので、仮に開けられても別に困るものでもない。

実際、それから約1ヶ月、ロック無しのまま乗り続けていた。

部品代120円

ワイヤーが切れただけなので、新しいワイヤーを取り付ければ直る。
それは当たり前なのだが、純正部品は何と$32もするらしい。
ここまで払う気もないので、先人に傚って代替手段を採る。

使うものは、100均で売っている自転車用ブレーキワイヤーと、電工用圧着端子である。

圧着端子はサイズが色々あるので、ホームセンターで現物合わせで選んだ。
無駄にたくさん入っているので、1個あたり10円程度。
ワイヤーと合わせても、部品代は税込みで120円程度である。

まずは古いワイヤーを抜く。
鍵側から抜くだけなので簡単だ。

そして、自転車用ブレーキワイヤーの皮膜を取っ払い、ワイヤーを挿し込む。
そこに圧着端子を入れる。

現物合わせで位置決めし、これぞというところで電工ペンチでワイヤーに圧着する。
これが緩いと、またしてもスカスカになってしまうので、とにかく力任せに押し潰す。

余ったワイヤーを切断して、作業完了である。
現物合わせで決めた位置が若干ズレていたようで、
閉じた時のキー位置に遊びが多いが、そのうち慣れるだろう。

圧着端子の圧着具合には我ながら不安感が漂うので、
緊急用にロック解除装置を追加しておいた。これこそまさに命綱である。

あとは、外していたカバーやロックをネジ止めして完成。
大したことない作業だったので、修理自体は30分程度。
タイラップで開ける作業の方がよっぽど大変だった。

いまのところ問題は出ていないが、いつまでもつのかの不安は拭いきれない。