今年は、バイクでツーリングに行くことにした。
動かなくなったBMW K100RSを売ってしまって以来1年半、どうも糞詰まり感が拭えない。どこでもいいから遠くの方に行きたくて仕方が無い。手元にバイクがある時は滅多に乗らないのに、無くなった途端に乗りたくなるんだから困ったものだ。足代わりのLead90はあるが、やっぱりスクーターは足以上の存在にはなってくれない。とにかく、バイクを手に入れなくちゃいけない。
さて、どのバイクにするか。いつもながらここで困る。俺にはいわゆる「あこがれのバイク」とか「ずっと欲しかったバイク」みたいなものが無いので、用途だとか値段だとかカッコだとかを色々と考えた上で、どのバイクを買うのかを決めるのだが、いつも決定打が無い。月刊自家用車を熟読し、ディーラー巡りをしながら比較検討しているオヤジの気分だ。こういう決め方は、あまり面白いものではない。
もう一度K100RSを買い直すという手もあるが、また同じバイクに乗るというのはつまらなすぎる。今度はちょっと違った方向性のバイクに乗ってみたい。オフロードバイクは面白そうだ。フツーのオンロードバイクだと、行動範囲が車と全然変わらない。だからって、別にエンデューロに出たいわけでもないから、未舗装路を苦労せずに走れればそれで十分だ。そういう点では、前に買おうとしていたSRX-6も対象外になってしまう。
せっかくの限定解除が勿体無いから、どうせならデカいバイクの方がいい。BMW F650GSは面白そうだが、中古でも高い。単気筒に60万も払うのはどこか気が引ける。R1100GSとかアフリカツインとかテネレみたいなものは大げさすぎるし、ヤマハのTDM850は、ああ見えてオフロードなんて全然ダメっぽい。もうちょっと安くて、オフロードもオンロードもそれなりに走れるようなものは無いのか?
そしてリストに残ったのがホンダのトランザルプにドミネーター、カワサキのKLE400だった。どれも消去法で残ったに過ぎない。昔だったら全く見向きもしなかったバイクである。少なくとも、NinjaやK100RSを買う時に、これらと比べたりなんかしなかった。今でも別に欲しくはない。少なくとも「心の底から欲しくてしょうがない」なんていうバイクじゃない。まあ悪いバイクでもないが、あまり人気がないのは確かなようで、オークションにもあまり出てこない。
現物を見てみたくなり、茅ヶ崎の外れにある梅田モータース(と思わず呼んでしまうが、本当はユーメディア湘南)に行ってみた。正月早々バイク屋なんかに行くヤツはそうそう居ねえだろう、と高をくくっていたら、思いのほか混んでいる。週末になると現れるビッグバイクオヤジ軍団は正月休みにも現れるようだ。それに加えて、いかにも就職が決まってやることが無い高校3年生軍団も多い。従って、売っているバイクもそれらの客層に合わせたものになる。無駄にデカいスクーターとか、無駄にデカいビッグバイクとか、無駄にデカいハーレーとか。デカいバイクは、当たり前だけど高い。
あとはTWとかFTRみたいな、何がいいのかサッパリ理解できない変なバイクもたくさん置いてある。10年前だったら不人気絶頂なバイクだったのに、それが今ではこれだけ高い値段で売られているんだから世の中判らない。
しかし、俺が買おうとしているバイクは、そのどちらの範疇でもなくて、ちょっと大きめなオフロードみたいなオンロードみたいな中途半端なバイクなのだ。しかし、そういうバイクは極めて人気が無いみたいで、全然置いていない。不人気なんだから、置いてなくても全然不思議じゃない。
仕方が無いので他のバイクを見て回る。店がデカいので展示台数も多いのだが、そそるバイクが全然無い。全くもってつまらない。コンセプトは30年前のまんまのくせに、年式だけが新しいバイクばっかりがズラッと並んでいる。CBにもZRXにもXJRにも、まるで興味は無い。そんなものより、古いバイクの方がよっぽど味がある。
左からVF1000R、RG500Γ、TZR250
しかし、こいつらがまた高い。もう20年も前のバイクなのに40万とかいう値札を付けている。バイクの中古車価格が全然下がらないのは、昔から全然変わっちゃいない。俺のピアッツァなんか3万円だぞ、3万円。20年前のモノなんだからそのくらいの値段にしろよな。
続いてオフロードコーナーに行ってみる。ここにあるのは200cc〜250ccだけのようだ。どれも同じような格好とカラーリングで、あまり面白味が無い。しかも軒並み高い。250ccの中古バイクに30万も払う気になれない。オフロードバイクに乗ってみたいなあと「思って」はみたものの、いざ現物を目の前にすると、やっぱりイマイチ興味を持てないのは何故なのだろうか。それは値段のせいだけではないだろう。
バイクは欲しいのに、欲しいバイクが無い。そんな矛盾した心理状態のまま展示場を出る。駐車場へ向かう通路の右側には、ハーレーばかりを展示している別の建物がある。俺はアメリカ合衆国自体は大好きだが、アメリカンバイクには全然興味がない。だからハーレーにも興味が無いので、これまでだったら間違いなく素通りだった。しかし、今日はどういうわけか中に入ってしまった。
そこで俺を待っていたのは、メッキパーツに固められたフツーのハーレーではなく、「エンジンだけがハーレー」のビューエル サイクロンM2だった。
実際にはこんな置き方はしていないけど、モノはこの画像のバイクそのもの。
その黄色い車体のバイクが妙に気になった。似たようなコンセプトで作られた(ように見える)ドゥカティのモンスターには全然興味がないのに、どういうわけかコイツは興味深い。
ビューエルというのは、エリック・ビューエルという元レーサーで、エンジニアでもあった人が作った会社の名前である。自社製のシャーシにハーレーから供給を受けたエンジンを載せて、フツーのアメリカンなハーレーとは全く別モノのバイクを作り、サイクロンとかサンダーボルトとか、アメリカらしく仰々しい名前をつけて売っている。
梅田モータースのサイクロンM2(その1・68万円)
梅田モータースのサイクロンM2(その2・59.8万円)
オークションに現れたサイクロンM2
町中を走っているサイクロンM2は何度か見たことがあるが、現物をじっくり見るのは初めてだ。エンジンにシャーシが乗っているような変わったデザイン。異常に自己主張の激しいVツインエンジン。コルベットやカマロにも通じる独特な雰囲気。不思議な曲線を描くタンクやシートの形状。スピードメーターが付いているのにタコメーターが無いなんていう馬鹿馬鹿しさ。これまで乗ったバイクとは全てが違っている。そしてコレは、オフロードバイクとは違って、ちょっとばかり高い金を払ってでも「乗ってみたい」と思わせる何かを持っている。
しかし、68万だ。安い方でも59.8万だ。安くはない。明らかに、高い。生活のために毎日乗っていた学生時代とは違って、年に数回しか乗らないことも判りきっている。そんなものにここまで金を払うか? それに、所詮アメ車だ。すぐに壊れて余計な金がかかるに決まってる。でも、それほど欲しくもないバイクに30万も払うことを考えたら、それくらいだったら悪くないような気もしないでもない。そういえば、前にもそんなことを考えながらGPZ900Rを60万近く出して買ったことがあった。あれはもう10年も前、新入社員の頃だった。
ヤバい、また葛藤が始まってしまった。ところで、コレのタンデムシートにテントなんか載せて走るのはかなりカッコ悪いよなあ・・・