誰にでも特別な存在の食い物(屋)というものはあるだろう。自分にとって特別な食い物はラーメンであり、その中でも特別なラーメン屋を挙げると、長後にあった古久家らーめん亭と、辻堂の樹だ。
前者は子供の頃の贅沢品だった。当時は外食の機会自体が少なく、たまに(年に5-6回程度)藤沢あたりに小田急で買い物に行った帰りに寄るのが長後駅前の古久家、年1回の究極の贅沢が藤沢町田線沿いのすかいらーく、みたいな感じだった。長後駅東口側には、ちょっと立派な店舗(店内の雰囲気は藤沢ダイヤモンドビルの店舗に似ていた)の古久家と、ショボいらーめん亭の2店舗があり、立派な方は火事で焼けてしまい小綺麗に建て直されたことを覚えている。
自分的には立派な方よりショボいらーめん亭の方が好みだった。そうそう行けなかったこともあって、味云々以前の特別な存在だった。好きが高じて…というわけじゃないけど、高校生の頃にバイトしていたこともある。誤注文で余ってしまったラーメンはこっそり裏で食べさせてもらえた。自分が長後を離れてから、そのらーめん亭の方が無くなってしまったことは随分経ってから知った。古久家自体は他店舗が今でもあるけど、なんか違う気がしている。
後者(樹)は、辻堂に越してしばらくしてから、クルマ通勤から電車通勤に切り替えてからちょいちょい寄るようになった。夜遅くまでやっているのが良いし、しつこくないのに深みが感じられる味も好みだった。味も具も微妙に変わっていったけど、ベースとなる部分は変わらない気がしていた。辻堂を離れてからは行く機会が減ったけど、年1回程度は行っていた。辻堂在住時にちょいちょい行ったラーメン屋は他にもあるけど、樹の存在を超える店はなかった。
その樹が2025/6/21で閉店になってしまうという話をネットで見かけた。ビル建て替えが理由だとのこと。辻堂駅前は再開発しまくっているので、いつかその流れにやられちゃうんじゃないかという気はしていた。ちょっと前に隣の寿司屋が閉店したあたりで、なんとなくその時が近い予感はあった。
葬式鉄(廃線が決まった鉄道路線に乗りに行く人たち)みたいでなんだかなーと思ったりもしたけど、それだけ思い入れがあるラーメンを食わずして閉店を見届けるのは我慢できず、閉店約10日前の6/10に、晩飯作りを放棄して辻堂に行ってしまった。
在宅勤務終了後に西へ向かう pic.twitter.com/CHn9XNBJDX
— m.sota (@msota_RS) June 11, 2025
混んでいて並んでいることを心配したが、それは杞憂で、全く待たずに入れた。普通に席に座り、バイトのニイちゃんにラーメンを頼んだ。「ワンラーです」という掛け声は最後まで変わらなかった。最後ぐらい「いつきラーメン」を頼んでみようかと一瞬思ったけど、結局いつものやつにした。
さほど待たずに出てきたラーメンは、あのいつもの樹のラーメンだった。
なくなってしまうと思うと居ても立っても居られず、辻堂の樹まで食いに来てしまった。悲しい張り紙以外は何も変わっていない。辻堂に越してきた1997年には既にあったはず。当時からずっとこの「コレでいいんだよコレで!」といいたくなる味だった。ご馳走様でした。今までありがとうございました。 pic.twitter.com/fGxTB1y1Nn
— m.sota (@msota_RS) June 11, 2025
行く途中、ピアッツァのブレーキランプ球切れ警告灯が珍しく点灯していた。電球さえもこの日の特別さを感じていたのだろうか。
珍しくブレーキランプ警告灯がついたので、工具箱を重しにしてペダルを踏ませて見てみたら、ホントに球切れしていた。すげー、コレ正常に動くんだな。 pic.twitter.com/a145LaASBP
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移転先を探したけど見つからずに閉店した、という話をちょいちょい見かけた。いつかどこかで再開してくれることを祈るばかりだ。
(後日談)
6/21が近づくにつれて、閉店を惜しむ人が多く押し寄せるようになり、最後は50人ぐらい並んでいたとのこと。それだけ世話になった人が多いっていうことなんだろうな。