キーポイントはまさかのカギ

閉店間際のスーパーに買い出しに向かおうとした時のことである。ガラガラとシャッターを開け、Vespa LX125のエンジンをかけようとしたのだが、セルスイッチを押しても全く反応が無かった。ん? 昼に乗った時は何の問題も無かったのに…

キーのオン・オフを繰り返したり、ブレーキレバーを何度か握ったりしてみたが変化がない。おかしい。何だこれは。

その時点では、LXをそのまま放置してクルマでスーパーに行くこともできたのだが、その気にならなかったのでそのまま修理、というか復活に向けての確認を続けた。

このあたり(エンジン始動)に関して、以前問題が出たのはスターターリレー。その際の症状を記録していないのでどんな状況だったのか思い出せないのだが、とりあえず交換した部品は手元にあるので差し替えてみた。なんとなく予想していたが、意味がなかった。変化がない。

この部品は差し替えられた方の古いものだが、コンタクトスプレーを吹いたら復活した記憶がある。せっかく買ったので新しい方を現在装着しているのだが、換えてから2〜3年しか経っていないので壊れることは考えにくい。多分関係ないだろう。

次に疑うのは各種のスイッチ類だ。とは言ってもスタータスイッチぐらいしか無いが。左右ブレーキも一応関係するが、ブレーキランプは点灯するので多分関係ないだろう。

ここ2年ほど夏でも付けっぱなしだった風防を外し、ライト周りのカウルを外してスタータースイッチをテスターで確認してみたが問題ない。ヒューズも問題ない。一応あちらこちらのコネクターを外してコンタクトスイッチを吹いてみたが変化なし。ホーンの下にあるリレーに対しても同じことをしてみたが何も変わらない。

ここまで変化がないと少しずつ苛立ってくる。徐々にヤケクソな行為をするようになる。夜中に電気をつけて汗をかきながら作業しているため何度も蚊に襲われ、その痒みが苛立ちを助長する。意味がないとわかっているのにスターターリレーを抜き、以前やったようにカバーを外してコンタクトスプレーを吹く。勿論何も変わらない。何の意味もないがカバーを外して(勿論キーはオフだ)そのまま挿してみたら、その際にどうやらリレーを接触状態で握っていたようで、突然セルモーターが回った。

とりあえず感電しなくて良かったと言うしかないが、この状態でセルが回るということは、少なくともバッテリーとセルモーターのあたりは生きているということだ。ヤケクソでリレーを接触させてセルを回し続けてもエンジンが掛かる気配は無いので、燃料か点火が来ていないのだろう。つまり制御側がどこか変ということになる。しかし、少なくともスイッチ類に問題はない。

まだ換えていないスイッチが一つあった。以前のスターターリレー交換の前に疑いの目を向け、四苦八苦して交換したものの全然効果がなかったイグニッションスイッチである。面倒くさいのは判っているので気が進まないが、他にもう思いつかないので換えた。そして案の定意味がなかった。

ここまで何の根拠もなく作業してきたが、闇雲にやっていても解決の見込みは無さそうだ。先人に頼るべくネットを漂うが、色々とキーワードを変えてもコレだ、という情報に辿り着けない。Vespaは海外のフォーラムが充実しているが、ここにも合致する症状はない。ダウンロードしたサービスマニュアルに従って順次確認してみたが、どこもおかしくない。断線ぐらいしか疑うところがない。でもねえ、いくらイタリア車だからって2010年代の車体が断線なんかするか?

作業開始から3時間。やれることが尽きた。とっくにスーパーは閉まっている。一体この3時間は何だったんだ。既に苛立ちは通り過ぎて達観状態に到達しており、淡々と外した部品やカウルを戻して元の形にして、工具や交換部品、油脂類などを仕舞う。無駄だと思われるが、一応バッテリーに充電器を繋いで作業終了とする。シャワーで汗を流し、安バーボンをあおりながら再びネットを漂うが、今度は目的が異なる。修理屋探しだ。

このLXを買ったのは埼玉だが、専門店でもないのでわざわざ持ち込む意味はない。ピアジオディーラーか、Vespa専門店だろう。茅ヶ崎というか辻堂の以前住んていた場所の近くにある店が良さそうだ。ピアジオディーラーは新山下にあるが、ここは実質的にはウメダなので、専門店の方が良いだろう。少しだけ近いし。

夜が明けた。もう何もやれることは無いと思っていたのだが、一つ思いついたことがあった。LXには無駄にイモビライザーなんていうものがついているので、キーが単なる金属棒ではなく何かが仕込まれている。そのため、いつもの青いキーではなく、茶色いマスターキーを使って始動を試みる。すると、昨晩からの充電で復活したバッテリー効果も相まって。物凄い勢いでセルが回った。

正確なところははわからないが、とにかくキーが問題だったということはわかった。古いクルマやバイクばっかりいじっていたのでこんな先進装備のせいだなんて全く考えもしなかった。誰だよイモビライザーなんていう余計なものをつけたのは(欧州では何年も前から義務化されているらしいが)。

エンジンを止めて青いキーで再トライしたがやっぱり駄目。茶色にするとかかる。これを何度か繰り返しているうちに、キーON時のメーター内の赤ランプの挙動が、茶色と青では違っていることに気づく。これは何だろうか。青は本来はこの車体で使えるはずだったのに、その情報が壊れたのだろうか。物理的に? それともソフト的に?

まあとにかく茶色のマスターキーなら動くということは間違いないので、鬱憤を晴らすべくそのあたりを一周する。その後、あらためてキーとイモビライザーについて調べる。もはや配線図もバイク修理店も、この件に関してはどうでもいいものとなった。

ソフト的に壊れたのなら再設定すればいいのだが、その方法がわからない。調べてみると動画が出てきた。

動画の教えに従って、茶色キーを挿してON、すぐ抜いて青キーを挿してON、またすぐ抜いて茶色キーを挿してON、とやってみるが、何も変わらない。何度やっても変わらない。相変わらず青キーは駄目なままだ。ということは、ソフト的ではなくハード的にどこか壊れたのだろうか。何回やっても駄目なのだから多分そうなのだろう。

一応少しだけ頭を冷やして翌日再度やってみたがやはり駄目。仕方ないのでヤフオクでキーを即決落札した。2,500円。SIP価格(27ユーロ)より安いので良心的だ。

すぐにキーは届いた。そのキーを持って合鍵屋に向かう前に、最後にもう一度だけ、と思いつつ例の作業をしてみると、なんと青キーでエンジンがかかってしまった。直ってしまったようだ。何故だ。ハード的に壊れたわけではなかったのか。それともやり方が悪かったのか。何も変えていないのだが。

しかし、一度こんなことになったキーを使うのも気持ち悪いので、とりあえず合鍵屋に向かった。しかし、残念ながら世間に合わせて合鍵屋も4連休だった。なんともこのエリアの個人店らしい。

というわけで、手元にはマスターキー、怪しい青キー、まっさらな青キーが残ったまま。いつかそのうち合鍵屋に行かなければならないと思いつつ、何日も続けて普通に動いてしまっているとその気が失せてくる。忘れた頃に再び駄目になったことを考えると恐ろしいので、早く行くべきだとはわかっちゃいるのだが。


数日後、再び合鍵屋へ。今度は開いていた。

工賃650円を支払い、まずキーが回るかどうかを確認。問題なし。
続いてマスターキーを使って再設定。全く問題なくエンジンがかかった。
これでようやく安心してマスターキーを自宅に仕舞える。

さらに後日談だが、その数日後、一度駄目になり、復活した古い青キーは再び駄目になった。
やはり一度壊れたものは使うべきではない。
今後は単なるシートオープナーとして活用することにした。