コイツも捨てたもんじゃない

Irmscherのドアを開ける。問題なくエンジンは始動する。エアコンを入れてみると、何故か先週の異音は消えている。原因? 勿論判らない。
そんなことをしているうちに、無性に運転してみたくなった。トランスミッション辺りから聞こえる異音は相変わらずだが、少なくとも動くことは動くので、運転すること自体は支障が無い。異音がいつ致命傷になるのかは判らないが、原因も判らないのにそれを検討するのは野暮な話だ。それよりも、1年近く駐車場から外に出ていないことの方が問題だ。それに、このところ毎度のように「どうしたものか」ばっかり言っているじゃないか。乗らずしてそんなことを言っていいのか? と自問自答してみたりする。ますます運転したくなってくる。
しかし、現状のIrmscherはすぐに動き出せる状況ではない。雨漏りの後処理をしていたせいもあって、シートすら固定されていない。フロアマットも外したままだ。とにかく動ける状況にしないと話にならない。そこで、外してあったシートや、それ以外の沢山の部品を取り付ける。仮付け状態だったVZ707も多少はまともな状態に固定し、ラジオをAFNに合わせる。AFNの愛称がEagle 810っていうのも奇妙な巡りあわせだ。左ドアの内張りも固定していないが、これは動くことには関係無いから放っておく。どうせドアミラー付近の錆取りをする時に外すんだから、固定するだけ無駄だ。フロントワイパーは再塗装のために家に持ち帰ったままだが、この天気ならあっても無くても一緒だ。そして走り出す準備は整った。
レカロシートに腰を下ろし、シートベルトを締める。不思議な緊張感が襲ってくる。何しろ「走るために」運転席に座るのは久しぶりだ。Irmscher自体もここ1年は駐車場から出ていない。せいぜい「動くことを確認するために」前後にちょっと移動した程度だ。緊張しない方がおかしい。マスターシリンダーの修理によってやけにストロークが短くなったクラッチをじわじわと繋いで動き出し、左方向にステアリングを切る。Irmscherはゆっくりと動き出す。鉄砲通りまでの細い道をノロノロと進む。特に問題は無い。ブレーキもきちんと効く。ステアリングの反応もきちんとしている。
鉄砲通りに出る。暖気はとっくに済んでいる。半ばヤケクソで「ガバッ」とアクセルを踏み込む。久々に味わうターボ+MTの加速感。シフトチェンジの渋さは相変わらずだが、G200WNの乾いた音とは全然違った重苦しいエンジン音とともに、Irmscherは暴力的な加速を見せる。実際には大した加速では無いことは理屈では判っている。それでも、このところG200WN + ATという構成のピアッツァ「だけ」に乗り続けていた俺には、4ZC1-T + MTの加速感は、恐しく暴力的に感じられる。毎日のように通勤で往復80kmを走っていた頃を思い出す。
そしてIrmscherはR134に出る。浜須賀から西方向へ、長い直線をぶっ飛ばす。簡単に100km/hを超えてしまう。それでも不思議と恐怖感や罪悪感が無い。同じことをJR130でやると、原因不明の恐怖感がいつも襲ってくるのに。Irmscherは、速い。45psの差はダテではない。交差点を曲がって、R134から外れる。フロントヘビーなIrmscherは、自然ときっちり曲がっていく。JR130だと、このくらいの速度だと必ずオツリがくるのに。
俺の身体は、やっぱりIrmscherに馴染んでいる。だから恐怖感も無い。通勤で毎日のようにスピード違反をしまくっていたのだから、多少のオーバースピードなんか何とも思わない。JR130だと、いつもビクビクしているのに。Irmscherには100,000kmも乗ったのだ。JR130なんて、たかが15,000kmだ。エアコンが効かない暑苦しい室内で、そんなことを考えていた。
暫く走った後、妙に洗車したくなった。きれいじゃない車は、直す気がしないから。

「コイツも捨てたもんじゃない」への2件のフィードバック

  1. > 俺の身体は、やっぱりIrmscherに馴染んでいる。
    んん〜わかる!
    私は最近どうにもテーマのあのしっとりとした触感が懐かしくて懐かしくて・・・(言っちゃった)
    でもY10のコーナーリングはああ見えてジンワリロールしてシックリ路面を掴み、そして狙い通りのラインをトレースできる素晴らしいハンドリング・・・
    ってこれもじつはテーマの面影だったりもして(ボソ)
    なんかオレ、おかしいなぁ。

  2. あーあ、言っちゃいましたね。
    やっぱりあるんですよ、いちばん馴染む感覚ってのが。同じピアッツァにしても、130 XEとhbLを比べると全然別物だし。Irmscherは、正直言って素晴らしいハンドリングとは言えませんし、多分世間一般ではショボいレベルなんでしょうけど、なんだか判らないけどうまい具合にきちんと曲がれるんです。
    バイクでもありますもんね。目隠しして(できないけど)乗っても、多分自分の歴代バイクは判るんじゃないかと。GPz750R(G2)とGPZ900R(A9)も全然別物だったもんなー。
    あと、気持ちいい感覚と、馴染んでる感覚ってのも多分違うんですよね。自分の家と実家の違いみたいなもんでしょうか。

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