K1100RS はじめてローダーに載る

諸般の事情により夕方から夜更けまで自宅に自分しかいない金曜日の夜。少々寒いが空は澄んでいる。ミッションオイルを交換して益々好調になったに違いないK1100RSに跨り、数年ぶり(茅ヶ崎在住時以来なので8年は経っているはず)にラーメン&ナイトランに出かけることにした。

寒いので珈琲を淹れて水筒に入れ、リュックに放り込む。もしかしたら使うかもしれないので、PENTAX K-1とミニ三脚もリュックに入れる。しまむらのファイバーヒートとフリースを着込み、防寒兼防水ネオプレーングローブを装着して準備完了である。遠くまで行くつもりはないのでパニアケースは着けずに身軽モードにする。

出掛けた帰り道に日が暮れることはあっても、わざわざ夜になってから出かけることは久しく無かった。久々の夜間単独行動に意気揚々と出掛けた…のだが、自宅からそう遠くない長大トンネル入口の交差点を曲がったところでクラッチに違和感を感じた。握ったときに「カチッ」という感触があったのだ。

普段ならそのまま無視するレベルだったのだが、なんとなくすぐそばにあったバスの停車エリアに停める(この時間帯はここにはバスはこない)。そしてクラッチレバーをニギニギする。何か普段と違うような気もするが、同じような気もする。何度ニギニギしても変わらない。はっきりとは違いはわからない。

これは取り越し苦労に違いない。そう決めつけて、クルマの流れが途切れたところを見計らって出発する。そして一速、二速、三速…とギヤを上げると、クラッチに明らかな異変が起こった。

クラッチを握っても全く反応がない。戻らない。これはもう間違いない。クラッチワイヤーが切れた。よりによって2kmにわたる長大トンネルに入ったばかりの場所で切れた。

なんてこった、さっきのあのバス停であと10回ぐらいニギニギしておけばあの場で切れたのに。それより、普段と違うことに感づいていながらも、ラーメン&ナイトランの欲望に負けて無視した自分に憤慨する。

但し、不幸中の幸いなのだが、トンネルが長すぎて混乱した心を鎮めるだけの余裕がある。トンネルに入ってしまった以上は仕方がないので、とにかく抜けるまで走り切るしかない。途中で停まっても良いことは何もない。そして、停まるまでの間になんとかしてギヤをニュートラルに入れなければならない。一速か二速で停車しようものなら一巻の終わりだ。そこからもう動けない。

これまた幸いなことに、このトンネルは中間地点が最高標高で、それ以降出口の信号まで延々緩やかに下る。そのため、下りの過程でどうにかして回転数を合わせながらギヤをニュートラルに入れたい。

ガチャガチャやっているうちにニュートラルには入った。しかしまだ出口は遠い。速度は制限速度を明らかに下回っており、後続車の苛立ちが感じられる。意外と簡単にニュートラルに入ったため欲が出てしまい、思わずギヤを二速、三速に入れて交通の流れに乗る。そして今度こそ出口が近づく。またニュートラルだ。しかしすぐには入らない。まずい、このままでは停まってしまう。焦りながら左足を上下させている間になんとかニュートラルに入った。惰性のまま信号待ちの車両の左側をすり抜け、駄目なことだとわかっていながらも停止線を越して交差点の手前で歩道に入る。成功だ。ミッションコンプリートである。

バイクを降りて一応クラッチワイヤーを確認する。わざわざ言うまでもなく、切れている。

さてどうするか、なのだが、選択肢は一つしかなく、JAFのロードサービスを呼んで自宅まで運んでもらうしかない。パニアケースには予備(予防交換した際の古いもの)のクラッチワイヤーが入っているのだが、よりによって今日はパニアケースを着けていない。つまり予備クラッチワイヤーは手元にない。その時点で、この場でできることは何もない。

まあ、仮に持っていたとしても、こんな暗くて且つ自宅まで10分程度の場所で、意地になって直す手段は選ばないだろう。明るくなってから工具やケミカルが揃った場所でやったほうが良い。

自分のバイク人生でクラッチワイヤー切れは2回目。1回目は学生時代、SRX-4での帰宅中だった。その時はたまたま目の前にバイク屋があり、適当なワイヤーを装着してもらって難を逃れた。今回はバイク屋はおろか民家すらパラパラとしか無いような場所で、しかも夜。どうしようもない。

そんなわけでJAFのアプリを起動してみると、ロードサービスを呼ぶ機能があったので試しに使ってみる。ウィザードに従って車両情報だの位置情報、依頼理由などを入力していくと、案外簡単に依頼処理は終わった。毎度おなじみ電話方式に比べて楽かというと正直そうでもないのだが、この方がJAF側が楽なのだろう。オペレーターも減らせるし。

登録が終わるとすぐにアプリ内のメッセンジャーに連絡が来て、35分ほど待てとのメッセージが入った。この場所は神奈川県にしてはそこそこ僻地にあたる場所なので仕方あるまい。持ってきた珈琲を飲み、もう終わってしまった皆既月食を見たりしながらロードサービスを待つ。

暇なので自分の過去の記録を探ると、前回クラッチワイヤーを買えたのは2008年、27,939km時点のことだったようだ。それから13年、44,000kmほど走っている。これはもう寿命だと言わざるを得ない。むしろ何故こんな超重要ポイントを交換せずに放置していたのか。自作アプリROADSTOCKにリマインダー機能を用意したほうがいいんじゃないかとはじめて思った瞬間である。

やることがないので、せっかく持ってきたK-1で写真を撮ったりしながら暇潰しをする。まさかこんなところで高感度テストをすることになるとは。

月とセットで手持ちで撮ろうとしたのだが、体勢に無理があるのでブレる。ISOを上げざるを得ない。そもそも既に月食は終わっていて普通の満月だ。面白いものにはならない。

ミニ三脚を使ってそれなりにシャッタースピードを遅くするとまともに撮れる。まあ当たり前なんだが。

そうして遊んでいるとJAFロードサービスから入電。場所を伝えて暫く待つと、少し先にローダーが現れた。また入電。ローダーを停めた場所で積載することになったので、そこまでバイクを押していく。挨拶を済ませ「どちらまで?」「すぐ近くなのでトンネルの向こうの自宅まで」なんていうタクシーみたいな会話をする。あとはJAFのサービスマンにおまかせ。寒いのでキャビンの助手席に乗って待っていてください、というのは気が利いている(作業を見ていたいという気持ちもあったのでつまらないと感じた部分もあるが、ジロジロ見られるのも嫌なものなのだろう)。

K1100RSには50,000km以上乗っているが、こうしてローダーに乗せるのは初めてのことになる。JAFを呼ぶのは2回目になるが、前回は適当なボルトを装着することで辛うじて路上復帰してローダー積載を回避することができた。今回は、症状的には前回より単純明快・簡単なものなのだが、その場でどうにもできないので自宅まで持っていかざるを得ない。

K1100RSの固定とローダー準備を終えたサービスマンがトラックのキャビンに戻ってきた。JAF会員情報から自宅住所を調べてカーナビに入力して移動開始となる。自宅まではたかだか5km程度。JAFは15kmを超えると1kmあたりいくらかの支払いが発生するので、近場で発生したのは不幸中の幸いである。今回は何かと「不幸中の幸い」が多い。本来は週末に静岡市まで行こうとしていたのだ。その際に発生するよりよっぽどマシだ。

クルマも含めると、ロードサービスを呼ぶのはもはや何度目になるかわからない。トラブルにも色々あるが、今回のものが最も緊張感がなかった。家まで近いし、原因と修復方法が見え見えなのが大きい。出先でリヤサスのボルトが抜けて1mmも動けないとか、全くエンジンがかからなくなるとかいうのとはわけが違う。

あっという間に自宅付近に着く。自宅前まではローダーは入れないので、近くの道で降ろしてもらい、そこからは押していく。本来は倉庫に入れたいのだが、エンジンがかかっていないと段差の登り坂がキツい。そのため、ピアッツァが不在なのをいいことに、駐車場に適当に停める。ふぅ、とりあえずこれで一安心だ。

時計は既に21時近くになっている。まずはラーメンを食うつもりで出掛けたのに、何も食えないままこんな時間になってしまった。ホッとしたので空腹感が際立つ。しかも営業しているラーメン屋がどんどん減ってくる時間である。カップラーメンかレトルトライス&ボンカレーで済ませたくなる衝動を必死に抑え、ライディングジャケットからワークマンの防寒ジャンパーに着替え、Vespa LX125ieに乗り換え、たまに昼休みに行く追浜の家系ラーメン屋「りゅう」に向かう。15分ほどで到着。こんな時間なので客は少なく、すぐに出てくる。

元々の予定より2時間遅れてようやくラーメンにありつく。この店は自宅から昼休みに行ける圏内では最もまともな家系である。やっと食えるぞ、散々待たされたんだからさぞ美味に違いない…と思ったのだが、ん〜、なんだか昼時に比べると味が全体的に薄っぺらくないか? 基本的には美味いのだが、心理的に激しいクドさを求めており、物足りなさを感じたようだ…ということにしておく。

ラーメンを食べ終えて、22時前に帰宅し、Vespaを倉庫に入れる。K1100RSがそこに無いのは違和感アリアリだ。

(つづく)

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