土曜日の晩飯ほど作る気がしないものはない。そういう時は、香川屋分店のメンチカツと相場が決まっている。これとボンカレーがあれば、充分晩飯らしくなる。
同じことを考えるヤツは非常に多いようで、土曜日の17時〜18時の間はモノスゴイ行列になる。今日は2つしか買わないつもりなのだが、たかが2つのために並ぶのは馬鹿らしい。そこで、行列を避けるべく18:30頃に家を出ることにした。炊飯器のスイッチを入れ、Lead90に乗って香川屋分店に向かうと、並んでいたのはたったの二人であった。
この時点で俺は「勝った!」と思っていた。何に対して勝ったのかよく判らないが、とにかくそう思ったのだ。しかし、勝負はそう甘くはなかった。
列の先頭に並んでいたデブが発した「メンチ25個!」という威勢のいい声に、俺は思わず頭を抱えてしまった。10個単位で買っていく客はよく居るが、25個なんて聞いたことも無い。それは許すとしても、よりによって俺の前に買わなくてもいいじゃないか。そんなに食うからデブになるのだ。
そのデブは、注文するだけしておいて「後でまた来ますから」と言って、店を去ってしまった。さすがに25個も頼むのは気が引けたのだろうか。何だ、案外いいところがあるじゃないか、デブのくせに。見直したぞ、デブ。
店のニイチャンも、デブの意図を汲んだのだろうか。デブの次、つまり俺の前に並んでいた、青いジャケットの痩せた男から注文を取った。すると男は「メンチを、20個」とボソッと答えたのだ。
馬鹿野郎!
何ということだ。せっかく25個攻撃をかわしたと思ったら、すぐに20個攻撃が襲ってきた。やられた。完敗だ。
しかも痩せ男は気が利かないヤツで、メンチカツが出てくるのをカウンターの前でひたすら待っている。店のデブのネエチャンとオバサンは、相も変わらず淡々とメンチカツを揚げている。一気に襲ってきた45個もの注文にも、まるで狼狽える気配もない。主にレジを担当するニイチャンは、ばつが悪そうに店の奥に引っ込んでしまった。
店内には、実に重苦しい空気が流れている。思わず痩せ男を睨みつけてしまうのだが、痩せ男もまたばつが悪そうにひたすらフライヤーを見つめるだけである。待っているうちにも客は増え続け、いつの間にか俺の後ろには5人ほど並んでいた。戻ってきた店のニイチャンが「もうすぐ揚がりますから、もうちょっと待って下さいね〜」と声をかけている。ネエチャンとオバサンは相変わらず淡々と仕事を続けており、これっぽっちも焦る気配はない。大したものである。
そして遂に、ネエチャンによるメンチカツの袋詰めが終わった。しかし、その袋は前に並んでいたデブが注文した25個入りのものであった。そんな誰も待っていないものを作ってどうするというのだ。お前は注文を聞いていなかったのか。ニイチャンの指示を聞いていなかったのか。今度はネエチャンを睨みつける俺。また待つのか。いつまで待たせるのか。もう判った、負けは認めるから早く出せ。
それでもネエチャンの動きはまるで変わらず淡々としており、実に機械的な動作で20個のメンチカツを袋に詰めた。ニイチャンが待ち構えたように痩せ男にそれを渡すと、痩せ男はそそくさと伏し目がちに店を出て行った。フッ、来たタイミングが悪かったな、かわいそうに。
やっと俺の番になった。あまりにも長い間待ちすぎたようだ。「メ、メンチを3つ」と、思わずどもってしまった。しかも、数まで間違えた。何ということだ。
今度は俺が伏し目がちになる番であった。たった3個のメンチカツが、全然出てこないのだ。そこのパッドに5個くらい並んでいるソレは一体何なんだ。ソレはメンチカツではないのか。そうでないなら一体何なんだ。まさかお前はこのメンチカツ攻撃の最中にコロッケでも揚げていたのか。
ようやくメンチカツが出てきた頃、俺は既に疲れきっていた。これだけ疲れさせて、しかも1つ多く注文させるとは。今日のところは俺の負けだ。
家に戻ると、米がとっくに炊きあがっていた。今日のメンチカツとボンカレーは実に美味かった。
いやぁ〜読ませるねぇ〜そして笑わせてくれますね〜(ホント笑った
なにやら久々sota節を聞けたような気がしますね!
いいですいいです、この調子で行ってください!
メンチカツ負け組みを脱却できる日を楽しみにしております。
リニューアル当初は正直「なんか縮こまってねぇか」と思わせるところ多分でしたが、やっと復活してきたネ。
だはっ!
このオフェンシティぶなココロの叫び、流れるような文体。
最高!!マジ腹抱えて笑いマシタ。
いや確かに、コレはかなり狙って書きました。
でもですね、こういうの書くのってすごく時間がかかるのです。バーッと書けることは書けるんですけど、その後の微修正がすごく時間がかかるのです。しかも、書いていて面白いので、すごく時間が経つのが早いのです。
そういう意味では、あんまりWebに時間をかけたくないって言う当初の目的(とはちょっと違うな)に反してしまうので、ちょっと考え物なのです。
ワタスもライターの端くれとして、sotaさんの文脈からはなにかランナーズハイのような心地好いトリップ感を感じ取っていたりします。そしてそれは勝手にワタスもご同慶の至りだったりしています。いいんですよ、文豪としては、それで。いいんですって。そうやっていい作品が生まれて行くのです。
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